たび重なる悲運を乗り越えて前へ進もう 運行再開の信楽高原鐵道に期待:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
2014年11月29日、滋賀県の第3セクター「信楽高原鐵道」が運行を再開する。台風によって鉄橋が破壊されて以来、約1年2か月ぶりの復旧だ。せっかく直した鉄道なら、どんどん活用しようではないか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
信楽(しがらき)高原鐵道信楽線は、滋賀県甲賀市の貴生川(きぶかわ)駅と信楽駅を結ぶ約15キロメートルのローカル鉄道路線だ。貴生川駅でJR西日本の草津線と近江鉄道に接続し、終点の信楽駅はタヌキの置物で知られる陶器「信楽焼」の産地だ。元は国鉄信楽線。しかし赤字のため国鉄時代に廃止対象となり、それを第3セクター運営に転換した。手続き中に国鉄は分割民営化され、いったんJR西日本が継承した上で廃止し、新会社に引き継いでいる。
元々、赤字を理由に廃止されかけた路線だから営業成績は悪い。それでも鉄道を残した理由は、沿線からの高校通学や国立紫香楽病院への通院手段として、また、信楽焼などをテーマとした観光客の誘致に必要と判断されたからであろう。だからこそ、2013年の台風で橋脚が流されたにもかかわらず、甲賀市の強い後押しで復旧が決断された。
2013年9月15日、平成25年台風第18号(アジア名:マンニィ)は、愛知県豊橋に上陸。東海、関東、東北南部を通過して三陸沖へ去った。上陸前から四国・近畿を中心に豪雨被害が多数発生。滋賀県も全域で浸水被害があった。そして信楽線の貴生川駅〜紫香楽宮跡(しがらきぐうし)駅間の杣(そま)川が氾濫、鉄橋の橋桁が破壊され不通となった。
同年10月、甲賀市は復旧の意思を持ちつつも、費用のめどが立たなければ廃止もやむなしとの見解だった。そして11月に滋賀県知事が県の支援と国への働きかけを約束。12月に復旧費用の見積もりが当初より低くなったこと、そして甲賀市の修復費用負担分について国の鉄道災害復旧事業費補助制度が適用されたため、復旧作業に着手。1年後の2014年10月に線路がつながり、2014年11月29日に運行再開となった。鉄道を存続させたい、という地元の強い要望に応えた。
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