たび重なる悲運を乗り越えて前へ進もう 運行再開の信楽高原鐵道に期待:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
2014年11月29日、滋賀県の第3セクター「信楽高原鐵道」が運行を再開する。台風によって鉄橋が破壊されて以来、約1年2か月ぶりの復旧だ。せっかく直した鉄道なら、どんどん活用しようではないか。
不幸な歴史から逃げるな。生かせ
被災する前の信楽高原鐵道は、途中で列車がすれ違うことなく、平日は1両、休日は2両編成が単純往復していたという。車両は4両を保有し、団体客がある場合に増結する。この運行状態から、観光面の乗客が多いと思われる。ローカル鉄道に必要な「観光」と「実用」のうち、観光の要素は満たしている。そこで提案したい。
(1)休止中の小野谷信号場を再整備し、列車の運行本数を増やす。
(2)JR西日本の草津線からの直通運転を復活させ、東海道本線草津駅に接続する列車を設定する。
(3)これら増発列車の旅客需要を創出するために、信楽焼を国内外へアピールする。
(4)世界陶芸祭をリスタートし、年に一度の祭典に向けて、毎月のイベントを設定する。
(5)陶芸・陶器をテーマとした観光列車を仕立てる。
(1)〜(4)までは、この路線の最悪の事故を思い起こさせるかもしれない。しかし「事故を起こしたから使わない」にこだわってしまったら前へ進めない。JR福知山線(脱線事故)もJR常磐線(三河島事故)も使えなくなってしまう。事故からきちんと教訓を受け取って、安全の強化につなげていく。それが正しい事故との向き合い方だ(関連記事)。避けたり封印したりというやり方は「被害者や遺族への配慮」にかこつけて現実から目を背けているだけだ。
小野谷信号場はレールなどが残っており、信号を整備すれば使えるという。使わなければもったいない。列車の運行本数を倍にできるから、通勤・通学利用者にとってもメリットがある。実用面の価値も増すだろう。
(5)については、信楽焼の食器を用いたレストラン列車、あるいは、JR四国の「海洋堂ホビートレイン」や和歌山電気鉄道の「おもちゃ電車」のように、飾り棚を設けて信楽焼を展示する列車でもいい。列車の中で陶芸体験ができるともっと良い。
陶芸体験は、海外からの旅行客にも人気があるらしい。難点は、造形の後、窯入れから窯出しまで時間がかかり、自分で作ったモノを土産として持ち帰りづらいことだという。どうせならば古民家に宿泊するなど、長期滞在型の体験プログラムに仕立てたらどうだろう。
地方ローカル線の中には、沿線に特色がなく「何にもない」を逆手にとって頑張っている路線もある。それに比べれば信楽高原鐵道は恵まれている。商売繁盛の縁起物、信楽焼のタヌキもついている。運行再開を祝福するとともに、今後の躍進を信じている。
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