イーロン・マスクら宇宙ビジネス開拓者たちの横顔:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
現在、宇宙ビジネスの最前線で活躍するのは、ベンチャー起業家や投資家が中心だ。彼らはいかにしてこの新市場を切り拓いたのだろうか?
天才投資家:スティーブ・ジャーベソン
先述したように、マスク氏の成功を支えてきたのが、ジャーベソン氏だ。
ジャーベソン氏は有力VCである米DFJ Ventureのパートナーで、SpaceXや米Planet Labsの投資家兼ボードメンバーを務める。また量子コンピュータで有名な米D-Wave Systemsのボードにも名を連ねるなど、米フォーブス誌の選定する「Tech's Top Investors」を2011年から3年連続で受賞している。
両親はエストニア人だが、本人は1967年に米国で生まれた。その後、スタンフォード大学を2年半で卒業。在学中から米HPでエンジニアとして働き、7つのチップをデザインした天才だ。卒業後は、経営コンサルティング企業の米Bain&Company、米Appleをわたり歩き、DFJに参画。Webメールサービスを提供する米Hotmailへの投資と米Microsoftへの売却でその名をとどろかせた。
宇宙への興味は11歳のときに訪れたヒューストン宇宙センターで抱いたという。今でも週末はネバダ州のブラックロック砂漠で小型ロケットを飛ばす愛好家だ。そんなジャーベソン氏が投資対象として宇宙を見るようになったのが、マスク氏が火星移住計画と低価格ロケットの構想を持ち込んで来たときだ。
「光ファイバが整備された後に、ネットやクラウドが出てきたように、宇宙へのアクセスコストが下がれば、大きなイノベーションが生まれる」とジャーベソン氏は語る。既に投資している衛星事業も今後はデータインテグレーションとアプリケーションの勝負になるとみている。さらに衛星によるユビキタスブロードバンド環境の構築も有望な投資対象とのことだ。
民間宇宙ビジネスの仕掛け人:ピーター・ディアマンディス
最後にもう一人、ピーター・ディアマンディス氏を紹介したい。同氏は以前の連載で取り上げた米XPrize財団の創設者として有名だが、ほかにも米Planetary Resources、米Zero Gravity Corporationなど10を超える宇宙関連の営利・非営利団体の創業者であるのだ。米フォーチュン誌の「世界の偉大なリーダー50人」にも選ばれている。
ギリシア系移民の子であるディアマンディス氏は1953年に米国で生まれた。幼少期にアポロ計画やドラマ「STAR TREK」と出会い「複数の惑星に人類が住めるようにしたい」と夢を抱いた。
マサチューセッツ工科大学(MIT)で航空宇宙工学を学んだ後、転換期は1990年代に訪れた。ブッシュ政権時代、「コロンブス500年祭」を契機に盛り上がりをみせた月面や火星の探査が、その後立ち消えていくのを目の当たりにして、政府主導の宇宙開発の限界と民間産業の必要性を感じた。
目をつけたのがツーリズムだ。1992年に無重力飛行体験を提供するZero Gravityを起業。1994年にはXPrize財団を立ち上げ、賞金1000万ドルをかけた宇宙旅行コンテストを始めた。当初はFAA(米連邦航空局)の飛行許可もなく、賞金の原資もなかったという。
その後10年にわたる不断の努力でFAAの規制緩和にこぎ着け、富裕層のAnsari家から援助を得て賞金を捻出した。Zero Gravityは2004年に初フライトを実現し、XPrizeも同年に有人宇宙船「SpaceShipOne」が賞金を獲得した。現在は賞金3000万ドルをかけた月面無人探査コンテストの「Google Lunar XPrize」を実施しつつ、Planetary resourcesを起業して小惑星資源探査も狙っている。
今回紹介したのは民間宇宙ビジネスをリードする一握りの人物に過ぎない。彼らのように、宇宙に狂信的な情熱を持つ異才が、大きなリスクをとり、長い年月をかけて切り拓いてきたのがこのビジネスにほかならないなのだ。
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