2014年を象徴する“電子タバコ”が日本上陸 新市場創出を狙う:1兆円規模の市場に
以前から欧米ではブームになっていた「電子タバコ」が、昨年来、日本にも浸透しつつある。JTやフィリップ モリスが相次いで製品を販売して市場拡大を図っている。
世界的な辞書である「オックスフォード英英辞典」が毎年、その年を代表する単語を選出しているのをご存じだろうか。近年では、写真などからGIFファイルを作成するという動詞を意味する「GIF」(2012年)や、カメラでの自分撮りを表す「selfie」(2013年)が選ばれている。
そして、2014年11月に発表された今年の単語が「Vape(ベイプ)」だ。ベイプとは、液体やカートリッジを熱して、気化させた蒸気を楽しむこと、またはその器具自体を指す。いわゆる「電子タバコ」と呼ばれるものがこれにあたる。10年ほど前に欧米を中心にブームに火がつき、今では全世界に広がっている。2017年までに電子タバコの市場規模は約1兆円に達すると言われている。
この市場成長の背景にあるのは、1つに喫煙に対する規制が挙げられるだろう。日本に限らずさまざまな国で分煙、禁煙が進んでいる。英国をはじめヨーロッパ諸国では、公共の屋内空間を全面的に禁煙とする法律が施行されているほどだ。そうした中で、灰や燃焼による煙が出ない電子タバコは吸える場所が多く、“愛煙家”の味方になっているようだ。加えて、喫煙者のニーズの多様化も市場拡大の要因となっている。
スタンフォード大学ベンチャーが開発
ところで、電子タバコとは何だろうか。実は明確な定義があるわけではないが、簡単に言うと、ニコチンや人工香料を含む液体やカートリッジを電気で加熱し、発生した蒸気を吸引するものである。なお、ニコチンを含む液体に関しては薬事法により規制されており、国内では販売できない。
日本では、日本たばこ産業(JT)が2013年12月から加熱型たばこデバイス「Ploom」(プルーム)という商品を販売している。同社によると、Ploomはタバコ葉を使用しているため「パイプタバコ」に製品分類されており、電気で加熱するメカニズムは共通するものの、医薬品に分類される電子タバコではないという。
Ploomは、2004年に米スタンフォード大学出身の技術者2人が開発した商品で、同名のベンチャー企業として2007年から米国・カリフォルニア州サンフランシスコに本社を構えている。Japan Tobacco International(JTI)が2011年12月に同社と業務提携したことで、米国以外での商業化権を取得した。現時点で日本以外にも、オーストリア、イタリア、フランス、イギリス、韓国などで販売している。
使い方はいたってシンプルだ。Ploom本体のマウスピースを取り外し、そこにタバコ葉が詰まった専用のたばこポッドを挿入する。マウスピースを戻し、本体電源を入れて加熱すれば30秒ほどで使用可能となる。たばこポッドは1個あたり10分から15分程度で、途中で電源を切っても再び使用できるという。
たばこポッドのフレーバーは、日本では大きくレギュラータイプとメンソールタイプの計6種類を用意する。「MEVIUS」や「PIANISSIMO」といった紙巻きタバコでお馴染みの銘柄もある。
紙巻きタバコと異なる市場創出を狙う
日本でPloomの販売を開始してから約1年。現在は公式オンラインサイトおよび原宿のカフェなどでの販売だが、売り上げは堅調で、発売当初はたばこポッドの在庫切れが相次いだそうだ。
後を追うように、2014年11月にはフィリップ モリス ジャパンが加熱式タバコ「iQOS」を愛知県名古屋市限定で発売し、消費者への普及活動に力を注いでいる。名古屋市内に世界初の旗艦店をオープンしたほか、1000以上の店舗で展開している。
このように各社の競争が熱を帯びてきた一方で、日本の紙巻きタバコ市場は厳しい。年間で約3500億本を記録した1996年をピークに総需要は減少し、2013年は1969億本となった。喫煙者率は男女合計で19年連続最低を更新中で、2014年は19.7%まで落ち込んでいる。JTとしては、Ploomの普及によってベイプという新たな市場開拓を図りたい考えだ。
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