なぜ「ゴキブリ1匹」でペヤングは消えたのか:窪田順生の時事日想(2/3 ページ)
「ペヤングからゴキブリ出てきた」というクレームを受け、まるか食品が全商品の生産中止に踏み切った。同時期に、日清食品でも同じような騒動あったのにもかかわらず、大きな問題に発展しなかった。なぜまるか食品ばかり叩かれるのだろうか?
マスコミは「おもしろいか」に注目
そんなまるか食品ではあるが、食品業界では味方も多い。だから火中の栗を拾おうという物好きな人たちもいる。その代表が、全国の中小スーパー223社でつくるシジシージャパンの堀内淳弘グループ代表兼社長だ。記者会見で、「マスコミの取り上げ方はおかしい」「面白おかしくとりあげすぎではないか」と問題提議したのである。
「命に関わるもの、健康に影響あるもの、健康被害のないもの、に分けて考えてほしい」
食品を扱う企業としてそのような願いは痛いほど分かる。だが、残念ながらマスコミはそんな線引きはしない。では、どこがポイントなのかといえば、「おもしろいか」だ。
数年前、週刊誌記者時代の先輩が「つまんねえ、これじゃ記事にならねえよ」とボヤいていたことがある。聞けば、某有名ハンバーガーチェーンのフィッシュバーガーのなかにイモ虫みたいなものが混入していたのだという。半分ほど食した女性は気持ち悪くなり、すっかりフィッシュバーガー恐怖症になってしまった。おまけに、店が謝罪時に「お詫び」として渡したのはハンバーガーの無料券。あんな目に合わせておいて、まだ食えってかと女性の怒りは爆発して、週刊誌編集部にタレ込んだというわけだ。
企業は誰もが知る世界的ビックネーム。フィッシュバーガー恐怖症というフックもある。ペヤングのときのように「おもしろおかしく」取り上げれば大騒ぎになるはず――。と思うかもしれないが、このネタはボツだけは免れたものの、えらい小さな記事で、世の中的にも飲食業界的にもたいして話題にならなかったか。
なぜか。店側はデリカシーのない対応をしたものの、女性が被害を訴えた直後から「確かに虫でございます。なんとお詫びしていいのやら」と頭を床にこすりつける勢いで、真摯(しんし)な謝罪を繰り返したのである。もちろん、私の先輩記者が取材を申し込んでも、この真摯な姿勢は変わらない。
そんなの当たり前じゃんと思うかもしれないが、実はこれができる食品メーカーは少ない。まるか食品のように「ありえない」とか「まずはしっかりと事実確認」とかを繰り返すほうが多いのだ。なぜか。自社製品の安全性に絶対の自信があるので、目の前で起きた事を受け入れられず、真っ先に「誰かが虫を入れたのではないか」というストーリーが頭に浮かんでしまうのだ。
関連記事
- 世界最速! 「リアルタイム文字おこしサービス」で日本の未来が変わる?
モバイル型情報保障サービス「e-ミミ」をご存じだろうか。沖縄県うるま市にある株式会社アイセック・ジャパンが提供しているこのサービスを見て、筆者の窪田氏は驚いたという。何がスゴいかというと……。 - NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由
言葉を生業にしているマスコミだが、会社によってビミョーに違いがあることをご存じだろうか。その「裏」には、「華道」や「茶道」と同じく「報道」ならではの作法があるという。 - 朝日やNHKが選ばれない時代に、私たちが注意しなければいけないこと
インターネットが勃興し、新聞やテレビといった旧型マスメディアが衰退しつつあると言われている。結果、何が変わったのか。筆者の烏賀陽氏は「ニュース・センターが消滅した」という。その意味は……。 - イケアは何を間違ったのか 地図表記を巡って大騒動
家具やインテリアなどを扱う「イケア」が炎上している。世界地図に「SEA OF JAPAN」という表記があって、韓国人からのクレームがあったわけだが、筆者の窪田氏は「問題はその後のイケアの対応にある」と指摘する。火に油を注いだような対応とは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.