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『竹鶴』という名のウイスキーマッサンの遺言(2/2 ページ)

2000年に『竹鶴ピュアモルト』が誕生した。この“竹鶴”という名前は、以前にニッカで商標登録済みだった。政孝親父はすでに他界していたが、「いつか、竹鶴という名前のウイスキーをつくろう」という思いがどこかにあったのかもしれない。

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ヴァッティングやブレンドによって変わるウイスキー


『竹鶴12年ピュアモルト』(出典:NIKKA WHISKY)

 『竹鶴ピュアモルト』を発売するにあたり、事前に試飲会を行ったときのこと、香りに興味を持った人が多かった。「こんなに香りがいいなんて。これまでウイスキーを飲むことはなかったのですが、これなら美味しい」という声があちこちであがった。

 私がマスターブレンダーを務めている当時はウイスキーには約400種類の香りの成分がある、と考えられていた。機械がより進歩して現在では高速液体クロマトグラフを使用するのだが、驚くことに今は約1000種類の香りの成分があることが分かっている。

 『竹鶴ピュアモルト』はニッカウヰスキーが保有する複数の蒸溜所で熟成を重ねたモルトウイスキーをヴァッティングしたものであるが、単一蒸溜所のモルトウイスキーを用いたシングルモルトとは違った個性が楽しめる。余市のコクがあり力強いタイプのモルト原酒と、宮城峡のまろやかで繊細なタイプのモルト原酒。しかも、歳月を経てさまざまな特性を持つ原酒ができるようになり、ヴァッティングやブレンドによって幅広い個性のウイスキーをつくることが可能なのである。

 秋になると、熟成具合をチェックするために2000〜3000本のサンプルがブレンダー室に送られてくる。ウイスキー愛好家の方に「うらやましいお仕事ですね」と冗談めかして言われたことがあったが、これこそ百聞は一見にしかず。実際テイスティングを行うと最初の数本で悲鳴をあげたくなるはずだ。

 『竹鶴ピュアモルト』の特徴は、余市と宮城峡、双方の個性の調和にある。芳醇な香りとまろやかな味わいのなかにも、コクと力強さが感じられる。一杯の竹鶴のなかに余市と宮城峡。味わうほどに面白さが出てくるというのも特徴のひとつであろう。また、『スーパーニッカ』と飲み比べをすると、ピュアモルトとブレンデッドの違いがよく分かり、新しい発見ができるのも面白い。

 『竹鶴』シリーズには、ラベルに政孝親父の顔が描かれている。このラベルを眺めると、ときどき思い出すことがある。それはある新聞広告に政孝親父の顔が大きく載ったときのこと。「わしを出すなと言ったじゃないか!」と大変不機嫌になった。『ブラックニッカ』のラベルの男のモデルに間違われたときも「わしはラベルに出るほど厚かましくないぞ」と言っていた。現在、『竹鶴』という名のウイスキーの、しかもラベルに肖像画が描かれていることに複雑な気がしないでもないが、もう許してもらえるだろう。

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