福島原発に近い「国道6号線」が開通――そこで何を目にしたのか:烏賀陽弘道の時事日想(6/6 ページ)
原発事故後、3年半ぶりに「国道6号線」が開通した。除染作業の人員や物資を輸送するために道路部分だけが開通したが、住民が戻らないままのエリアはどんな姿に変わり果てたのか。筆者の烏賀陽氏が現地リポートする。
福島第一原発が目の前に
前のトラックにくっついて左に曲がったとき、私はこの道がどこに続いているのか知った。森の向こうに、見覚えのある排気塔と、巨大な赤白の工事クレーンが林立しているのが見えたからだ。
ぎょっとした。福島第一原発が目の前にあった。あわてて線量計を取り出す。毎時5、6、7……とマイクロシーベルト表示の数字がするすると増えていく。これはいかん。とんでもないところに来てしまった。
しかし車列は止まらない。Uターンする場所もない。そのまま、検問まで来てしまった。手前でクルマを止めると、ロンゲに眼鏡の若い警備員が歩み寄った。
「はーい。じゃ、この先でターンしてくださいね」
許可証の有無を聞くこともしなかった。まあ、見れば分かる。回りはダンプやトラック、会社名(その多くが原発関連企業)の入ったバスかワゴン車ばかりである。私は場違いなちん入者だった。
Uターンしてクルマを止めた。福島第一原発から1キロだった。それにしても警備員が軽装だ。こんなに線量の高い場所に1日立っていて、大丈夫なのだろうか。などと思いは千々に乱れた。
線量計を見る。毎時8、10、12と数字が激しく動く。風が強い。原発側から風が吹くと数字が上がる。心臓がばくばくした。線量計を地面に近づけると数字が上がるのは、まったく除染が入っていないからだろう。枯れ草がひどく邪悪なものに思える。
ふと見上げると、青地に白い文字の看板にこう書いてあった。
「ありがとうございました。今日の出会いに感謝します。福島第一原子力発電所 東京電力」
その隣では、作業を終えたらしいオジさんたちが、ワゴン車を止め、のんびりとタバコをふかし、作業服を着替え、立ちションをしていた。線量計の数字は相変わらず乱高下している。
表記について:
筆者は、福島第一原発事故の被災地や被災者をを「フクシマ」とカタカナ表記しています。(1)放射性物質の汚染は福島県外や日本国外にも広範囲に広がっているため。あたかも福島県内にだけ汚染が限定されているかのような誤解を封じるため。(2)原発被災からの避難者は福島県内だけでなく県外あるいは全国に散らばっているため。(3)福島県や福島市といった同じ名前の行政区域の混同を避けるため。(4)「原発事故のために住民が被曝する」という人類の歴史で3回しか起きていない(スリーマイル島、チェルノブイリ)歴史的な事件として記述するため。
筆者から投げ銭のお願い:
烏賀陽はこうした福島第一原発事故関連の取材をすべて自費で行っています。交通費や宿泊費などの経費はすべて自腹を切っています。こうした報道に経費を払う出版社も、もうほとんどありません。取材は読者からの「投げ銭」に支えられています。どうぞよろしくお願いします。
PayPal、銀行口座など投げ銭の窓口と方法はこちらをご参照ください。
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