トヨタの燃料電池自動車「MIRAI」の登場で、ガソリンエンジン車はなくなる?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
夢の燃料電池車(FCV)――トヨタが発表した「MIRAI」は大きな話題となった。ありあまる水素を燃料にできるFCVは究極のエコカー。FCVが普及すれば、将来、ガソリンエンジン車は駆逐されるのだろうか?
ガソリンエンジンはなくなるのか?
さてMIRAIがどんなものか分かったところで、改めて質問したい。あなたはこれが、従来のガソリンエンジンを駆逐するものだと思うだろうか?
動力源としての柔軟さは一長一短である。低速はモーターが強く、高速はガソリンエンジンが強い。インフラの話はもうガソリンの圧勝だが、エネルギーコストの問題はまだ未知数だ。燃料である水素そのものは廃物利用でいくらでもあるけれど、それを安全に運用するコストがどのくらいかかるのかは、何とも言えない。
少なくとも、ガソリンエンジンがあと20年やそこらで消えてなくなることはなさそうだ。ガソリンエンジンもまだまだ長足の進歩を遂げており、ここ数年の燃費の向上は凄まじい。現在のトレンドは、燃焼室に直接ガソリンを噴射することで吸気温度を下げ、その結果ノッキングが起こりにくくなった分圧縮比を上げてエネルギー効率を向上させる「ストイキオメトリー直噴」だ。近年この方式で燃焼が不安定になる領域を解消するために、旧来のポート噴射方式と組み合わせて安定燃焼を図るエンジンも増えてきた。まだまだ技術革新の余地はありそうなのだ。
加えて、ハイブリッドカーの存在がある。モーターとガソリンエンジンの比較なら一長一短なのかもしれないが、ハイブリッドになると前述のように両方式の欠点を補完し合う形になり、アドバンテージが大きくなる。
おそらく今後しばらくは、ハイブリッドカーとプラグイン・ハイブリッドカーを中心としながら、要求コストと用途によって、燃料電池やガソリンエンジン、ディーゼルエンジンがせめぎ合う構造が続くだろう。少なくとも筆者には、燃料電池が他の動力源を駆逐してしまう未来がやってくるとは思えない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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