なぜ“バターみたいなマーガリン”が増えているのか:窪田順生の時事日想(3/5 ページ)
夏の猛暑が原因で、昨年スーパーの棚からバターが消えた。ここにきてようやく商品が並ぶようになったが、最近は“バター風マーガリン”が売れているという。少し前まではマーガリンがバターをうたう商品は少なかったのに、なぜ急に増えてきたのか。
「人造バター」という名称を捨てた
もちろん、マーガリン業界も黙ってはいない。この動きを挑発するかのように「大日本人造バター擁護同盟」なる団体を結成し、政治家へロビー活動を展開したのだ。
第二次世界大戦を挟んだこの両者のバトルは次第に、マーガリン側が優勢になる。庶民にパン食が普及したことで安価なマーガリンの需要が高まったことに加えて、ショートニング(動物・植物油脂などを主原料とした食用油脂)が、外食産業で引っ張りだことなり生産量が急増したのだ。
そんな余裕もできたこともあってか、マーガリン業界は1952年11月、ある大きな決断をする。大正時代から用いて慣れ親しんできた「人造バター」という名称を自ら封印したのだ。その背中を押したのは、『暮らしの手帖』主宰者・花森安治氏がマーガリン普及のためという題目での講演で出たこの言葉だ。
「世の人々は、人造とか、代用品とかというものは非常に粗悪なものであることは忘れてはいない、要はマーガリンはバターと全く異なった食品であって、マーガリンのほうが用途、用法によっては優れていることを強調することだ」
もはやマーガリンはバターの模造品ではない――。そんな業界の強い思いは、その2年後に生まれたヒット商品を見てもうかがえる。
後に「ネオソフト」という超ロングセラー商品の前身として、1954年に発売された「ネオマーガリン」の商品パッケージにはバターのバの字もないのだ。
それから60年。「ネオソフト」はファットスプレッド(油脂含有率が80%未満)に規格を変更したことはあったが、一貫として「バターっぽいですよ」とか「バターみたいな味ですよ」というようなバター側にすり寄るような姿勢をみせてこなかった。昨年秋に「ネオソフト コクのあるバター風味」を出すまでは。
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