北近畿に異変アリ! 異業種参入のバス会社が鉄道事業を託された理由:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
国土交通省は3月11日、北近畿タンゴ鉄道と沿線自治体、ウィラートレインズによる鉄道事業再構築実施計画を認定した。4月1日から「京都丹後鉄道」が発足する。その背景には何があったのか……。
北近畿タンゴ鉄道を存続させる事情
国土交通省が2008年度予算に向けて作成した資料(関連リンク)によると、地方鉄道の7割が営業赤字である。しかし、施設保有に関する経費を除けば、全体の約9割の事業者が黒字に転じるという。そこで、京都府が主体となって有識者検討会で議論した結果、「純粋民間資本による自立した経営環境が必要」という結論に至った。上下分離方式とし、線路施設は自治体が保有、鉄道事業は民間会社に任せる。
しかし、ここで問題が残る。北近畿タンゴ鉄道を解体できない事情があった。その原因は、沿線自治体、特に京都府側と兵庫県側の温度差である。北近畿タンゴ鉄道は沿線の大部分が京都府だ。しかし、宮津線の但馬三江駅と豊岡駅だけが兵庫県豊岡市にある。従って、兵庫県も北近畿タンゴ鉄道の経営に関与している。ただし、その姿勢は積極的ではない。むしろお荷物という意識が高そうだ。
豊岡市にとって、市民の鉄道利用は、JR山陰本線や福知山線を経由した神戸、大阪、京都方面だ。北近畿タンゴ鉄道に乗る理由があるとすれば観光だけど、クルマの利用者の方が多いだろう。但馬三江駅付近の住宅は少なく、通勤・通学需要もわずかだと思われる。
一方、北近畿タンゴ鉄道沿線住民の移動傾向も、宮福線を利用した神戸、大阪、京都方面となり、豊岡駅への需要は少ない。そこで、2011年1月に京都府が兵庫県に対し、兵庫県区間の廃止を打診した経緯がある。これがきっかけで同年4月に京都府、兵庫県、沿線7市町、JR西日本が組織する「北部地域総合公共交通検討会」が発足した。
その後、2012年3月に経営対策補助金の負担額が話し合われたときに、京都府は兵庫県に対し2200万円の負担を求めた。しかし兵庫県は1000万円の負担にとどまったと報じられている。兵庫県は冷たいと思うかもしれないけれど、わずか2駅間で、しかも県民もほとんど利用しないという状況だ。兵庫県の事情も理解できる。
こうした不協和音が響く中で上下分離化し、線路施設を各自治体の保有とすれば、鉄道事業を託された民間会社は各自治体との折衝に忙殺されて業務に支障をきたすだろう。そこで、沿線自治体のとりまとめ役として、北近畿タンゴ鉄道を上下分離の下側の会社として存続させた。上側にあたる鉄道運行会社の窓口機能を1つにするためだ。
北近畿タンゴ鉄道は国庫補助の窓口としても機能する。線路設備、車両、土地を保有し、それぞれに対して国や各自治体の支援を求めていく。兵庫県側の路線存廃問題は北近畿タンゴ鉄道の問題であって、鉄道運行会社には関係ない。運行会社は与えられた線路で、その距離が縮んだとしても、列車の運行に専念できる。
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