太地町のイルカ漁を追い込むと“得”をするのは誰だ?:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
和歌山県太地町の「イルカ漁」が、またまた叩かれている。さまざまな団体が「環境問題」や「自然保護」の視点からイルカ漁をやり玉に挙げているが、問題はそれだけなのか。筆者の窪田氏は、「関係各位の『ビジネス』における戦略だ」と指摘している。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
またまた和歌山県太地町の「イルカ漁」が叩かれている。
世界の300を超える施設が加盟している国際機関「世界動物園水族館協会」(WAZA)が太地町のイルカ追い込み漁が「倫理規定」に反しているとして批判。これによって捕獲されたイルカの購入を続けるようなら除名すると日本動物園水族館協会(JAZA)に迫り、同協会がこの“圧力”にひれ伏したのである。
会員の半数以上(89会員)を占める動物園にとって稀少動物の繁殖を行うには、JAZAからWAZAへという国際ネットワークは必要不可欠だ。多種多様な稀少動物とイルカを天びんにかければ、WAZA脱退という選択は現実的ではない。JAZAの構造的な弱みにつけこんだWAZAの“作戦勝ち”といえる。
欧米ではサーカスの象に対しても「残酷だ」なんて批判もある、海で泳ぐイルカくんをとっ捕まえて水槽に入れて芸を仕込むことに対しても激しい拒否感がある。WAZAも彼らのパートナーである「国際自然保護連合」(IUCN)も10年以上前から難癖をつけているので、さして驚くような話でもないのだが、問題はなぜこのタイミングで強硬な態度に出たのかだ。JAZAの荒井一利会長が記者会見で興味深いことを言っていた。
「WAZAの通告の裏には反捕鯨キャンペーンがあったと思う。いじめという言葉が妥当かは分からないが、圧力があったのは間違いない」
要するに、反捕鯨団体から突かれたWAZAがJAZAに圧力をかけて太地町のイルカ漁追い込み漁を行わせないように追い込みをかけた、という構図なわけだ。
確かに言われてみると、そう思えるような「伏線」もある。従軍慰安婦問題などでちょいちょい名前がでてきた「国際司法裁判所」が日本の南極海調査捕鯨の中止を命じたのが2014年3月。その半年後のIWC(国際捕鯨委員会)総会では、明らかに日本を標的としたミンク鯨の捕獲拡大案も否決されている。事前に海洋生物学の専門家で構成されるIWC科学委員会からは捕獲を続けて問題のない豊富な資源量だと「内定」をもらっていたにもかかわらず、欧米諸国から「やっぱかわいそうじゃん」と覆されたのだ。
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