世界で戦うために“やってはいけない”ことは? もっと「個」で行動しよう:日米のビジネス事情の違いを知る(後編)(5/5 ページ)
ビジネスを行う上で日本と米国ではどのような違いがあるのだろうか。前編では、キャリアパスの違い、ビザ取得の難しさなどを紹介したが、後編では……。
石渡: そうかもしれないですね。今回ニューヨークに来て改めて思ったんですが、日本って素晴らしい国ですよね。グローバルに見てもいろいろな意味で優れています。だから基本的には、日系企業は日本を拠点にしたままでよいと思うんです。そこから世界を狙うために米国をどうやって活用しましょうか、という話になるのかなと。
もちろん海外にわざわざ出てくるメリットもたくさんあって、例えばニューヨークでビジネスをすると、より大きな市場を相手にできるのでレバレッジが高いという話を聞きます。そうした優位性を求めて拠点を海外に移すという選択もありだと思います。関さんは、実際ご自身がニューヨークに来られてみてどうですか?
関: Six Apartが提供するソフトウェアやインターネット・サービスのビジネスは、米国企業が圧倒的な存在感をもっているので、米国で活動していると、より多くの国から注目され、よりスケールの大きい仕事ができると思っています。
また最近は多くの日本企業がシリコンバレーに進出していますが、ニューヨークでは日本人駐在員が減っていて日本企業のプレゼンスが低くなっているように感じます。なので、「逆張り」が好きな自分にとっては、シリコンバレーよりニューヨークに進出するほうが、より「おいしい」可能性があると思っていました。
実際、ニューヨークに来てみると、ニューヨークの人たちは本当に日本という国や文化が大好きな人が多くて、ずいぶんと「得」をしているように感じます。あとは米国に来ると、「個人」の可能性が高まるなと思いますね。日本だと会社の枠を出ないことを求められている気がしますから。
石渡: 確かに米国は、数年刻みで個人が会社を転々とするような環境ですもんね。米国でSNS「LinkedIn」が広く使われているのは、個人の能力を評価する、注目する文化があるからだと思います。
関: 「ものづくり」という視点でいけば、大量生産・大量消費の時代だった従来は、1人1人が部品を作り、全体で大きなものを完成させるモデルでしたが、今は、1人である程度プロトタイプまで作れます。つまり、“1人のアーティスト”という部分が価値を持ってきている。にも関わらず、会社の組織は、“個人を殺す”方向にどんどん進んでいる。個人である程度ものを作っていこうと思ったら、失敗する確率は高いけれど可能性を追求できるので、米国に来るのはひとつの選択肢ではないかと。
今はクラウドファンディングサービスを使って、日本にいながら可能性の高い米国市場を利用することができるようになったので、まずはオンラインを足がかりにするところから始めてみてもよいと思います。そして次のステップとして、「米国を拠点にする」を選択肢に加えてみる。すでに、オンラインで米国市場にアクセスする日本人は増えてきたので、今度はそういう人たちとの差別化を図るために、「わざわざ米国に来る、住む、お客さんと直に話す」ことが次の作戦になってくると思います。世界を目指すんだったら、東京から発信するよりも、米国から発信するほうがポテンシャルは大きいですからね。
石渡: 後は、米国に来ただけだと意味がないので、何のために米国に行くのか考えてから来たほうがよいですよね。来たから偉いわけじゃない。何をしに米国に来たか。米国人も私たちにそれを求めて来るので、しっかり答えられる状態を作っておく必要があります。まずは、「何かを作りに来た」「学びに来た」というシンプルな回答でもよいと思います。「セルフブランディング目的で渡米しました」以上の具体性が欲しいです。
関: 目的意識をより先鋭化させる。企業から個人に目的意識を絞る。量より質に転換する。これらを実現する中のオプションとして、日本の企業は米国を活用するのがよいと思います。そしてその目的を果たすために、自社や自分個人に合ったやり方を選んでいくと。今日の話はずいぶんと盛りだくさんでしたが楽しかったです。ありがとうございました!
石渡: こちらこそありがとうございました。
(終わり)
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