なぜ日本でデング熱が流行した? 国立感染症研究所・名誉所員の話:迫る脅威(3/3 ページ)
昨夏、デング熱に感染した患者が増え、市民の間で不安が広まった。では、今年はどうか。国立感染症研究所の名誉所員に、まだあまり議論されていない“問題”を聞いた。
日本でなぜデング熱が流行した背景
Q: なぜ代々木公園でデング熱に感染した人が出てきたのでしょうか。
A: 「蚊が強風によって飛ばされて、代々木公園にいったのではないか」と指摘されている方がいましたが、それはあり得ません。飛ばされるのであれば、周辺の一戸建て住宅にもいくはず。そして、そこに住む人たちがデング熱にかかるはず。でも、誰も発症しませんでした。
代々木公園だけでなく、上野公園でも感染した人がいました。公園で長期滞在している人を悪く言うつもりはありませんが、例えば、炊き出しの情報があれば、数キロ離れたところでも歩きます。代々木公園と上野公園は10キロほど。ウイルスに感染して発症するまで、5〜6日ほどかかります。つまり、発症するまでの期間は元気なので、その間に上野公園から代々木公園に行った可能性があります。
また、蚊は温度によって反応します。感染者は体温が上がるので、刺されやすいんですよね。1日に1匹、2匹といった話ではなく、もしかしたら100匹、200匹かもしれません。その結果、ウイルスを持ったヒトスジシマカが増えていき、代々木公園で数千匹になった……という流れではないでしょうか。
昨年、「ウイルスを持ったヒトスジシマカは数匹しかいないのでは」といったコメントをした人がいましたが、それを聞いて驚きました。なぜ蚊のことを知らない人がメディアに登場するのかよく分かりませんが、昨年の夏、代々木公園に感染していた蚊は数千匹いたはず。行政は公園を封鎖しましたが、あの決断は正しかったですね。
Q: 日本でなぜデング熱が流行したのでしょうか。
A: 大きくわけて3つあります。1つめは、昨年までヒトスジシマカの防除対策がほとんど行われていなかったので、媒介蚊の成息密度が異常に高い状況が続いていました。2つめは、海外から日本への旅行者が1000万人を超えているので、デング熱の輸入症例が年間200人を超えました。また、海外に出張・旅行する人が増えていることも大きい。3つめは、近年真夏日(最高気温が30度以上)の日数が増えたことも挙げられます。
デング熱対策として「長ズボン・長袖を着用すること」も大切ですが、何が問題なのかがあまり議論されていません。先ほど申し上げましたが、雨水マスをどうすればいいのか。雨水マスを管理する関係部署の話し合いがうまくいかないと、薬が散布できないだけでなく、フタすら開けることができません。
昨年の夏は代々木公園などまとまったエリアで対策をとることができましたが、今年はぽつんぽつんと患者が散発するかもしれません。そうした患者さんをどのように対応すればいいのか。いまからきちんと決めておかないと、「1人くらいいいだろう」と考えていると、そこから周辺の家にデング熱が広がるかもしれません。広がらないようにするために、どうすればいいのか。いまから決めておく必要があるでしょう。
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