えっ、予定通りに飛んでいない? 機内で何をしているのか、パイロットに聞いてきた:水曜インタビュー劇場(パイロット公演)(4/7 ページ)
晴れている日もあれば、雨の日もある。無風のこともあれば、風が強いこともある。さまざまな状況の中で、パイロットはどのような会話をしているのか。JALの機長に聞いてきた。
地上で決めたことをリプラン
土肥: 飛んでからはどんなことを決めなければいけないのですか?
塚本: 離陸したときから風が吹いていますよね。その風が強ければ、スピードが安定しません。また、他の飛行機もたくさん飛んでいるので、地上で「自分たちが飛ぼう」と決めた高度で飛べないことがあるんですよ。
じゃあ、どうすればいいのか。予定していた高度よりも上がいいのか、それとも下がいいのか。高度が変われば燃料の減り具合が変わるので、燃料は十分に足りるのか。時間も変わってくるので、どのくらい遅れるのか。安全な範囲の中でスピートアップすれば、遅れを縮めることはできないのか。
飛んだ瞬間から、状況がどんどん変わっていくんですよ。地上で決めたことをリプランしなければいけないので、そのたびに機長と副操縦士が話し合いをして、決めていかなければいけません。
土肥: リプランってどのくらいの割合であるのですか?
塚本: ほぼ100%ですね。地上で想定したとおりに飛べることは、ほとんどありません。
土肥: 地上で30分もかけて話し合っているんですよね。それってムダのように感じるので、いっそのこと高度については飛んでから決めるのはいかがでしょうか?
塚本: いえ、ムダではありません。地上で決めたことがベースになって、それをどんどんリプランしていきます。例えば「この高度で飛ぶ」と決めていたのに、リプランしなければいけなくなった。地上で「上に飛びたくないからこの高度で」ということであれば、リプランの際に上の話をせずに、下の話をする。
土肥: 状況の中で、ベストの選択をするということですか?
塚本: ベストかどうかは分かりません。
土肥: そ、そんな。不安なことを言わないでくださいよ。
塚本: クルマで道路を走っていて、渋滞があったとします。そのときに近道を選ぶことがあるかと思いますが、どちらの道を選べば目的地に早く着くのか。そのときはなかなか分からないですよね。目的地が近ければ分かるかもしれませんが、遠くなればなるほど早く着けるかどうかは分かりません。飛行機でも同じことが言えるんですよ。高度もひとつしか選ぶことができないので、ひょっとしたら違う高度のほうが快適に飛べるかもしれません。なので、決断するときに、その高度がベストかどうかは分からないんです。
土肥: 地上でどの高度を選ぶのかは、機長と副操縦士で決めるということでしたよね。飛行中はどうなのでしょうか?
塚本: 同じです。機長が「この高度がいい」と言えばそれで……というわけではなく、副操縦士と一緒に考えなければいけません。そのためにも、パイロットにはコミュニケーション能力は不可欠なんですよね。
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