電車の運転が、つまらないんです:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/3 ページ)
世の中には「楽しい仕事」と「つまらない仕事」がある。いや、そうではない。どんな仕事でも「楽しくできる人」と「辛いけど我慢する人」がいる。仕事なんてつまらなくて当たり前、という考え方もあるけれど、楽しいほうがいいに決まってる。どうすれば楽しくなるか、どうすれば辛さを軽減できるか。
つまらない原因は「安全システム」
仕事に生き甲斐を感じていた運転士さんにつまらない思いをさせる原因は、最新の安全システムだった。その話の前に、簡単に鉄道の安全装置を紹介する。
電車の安全装置の基本は「停める」だ。例えば、運転士が赤信号を見落としたとき、体調不良など何らかの原因でブレーキ操作を実行しなかったとき、自動的にブレーキをかけて電車を強制的に停める。これを「ATS(Automatic Train Stop:自動列車停止装置)」という。
ATSに似た機能の安全装置として「ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)」がある。こちらは「線路や進路の状況に応じた最高速度を運転士に示し、その速度を超えた場合に自動的にブレーキをかけて速度を落とす」という仕組みだ。指示速度がゼロのときは赤信号と同じで、運転士がブレーキをかけなければ非常ブレーキがかかる。
ちなみに、ATO(Automatic Train Operation:自動列車運転装置)というシステムもある。略称は似ているけれど、ATSとATCは、危険防止のためブレーキをかけるシステムだ。ATOは加速も実施し、発進から停止まで自動化している。東京のゆりかもめや大阪のニュートラムのような自動運転の仕組みである。
ATSとATCに話を戻す。両者の違いを簡単に説明すると、信号機が地上にある(ATS)か、運転席に具体的な速度を示す(ATC)か、である。ATSとATCはどちらも進化している。ATSには強制停止だけではなく、区間ごとに制限速度を定め、減速にとどめる仕様もある。2005年のJR西日本福知山線脱線事故では、この区間に詳細な速度制限を行うATSが設置されていなかった。この点について「急カーブで事故が予見されていたか」「新型ATSの設置を怠ったといえるか」が、JR西日本歴代社長に対する業務上過失致死傷罪を問う裁判の争点の1つとなった。
人間が電車を運転する以上、ヒューマンエラーの危険をはらんでいる。ATSもATCも、過去の運転ミスによる事故がきっかけで開発が始まり、改良されてきた。この歴史が日本の鉄道の安全の根幹にある。乗客はこうした安全システムに守られているから安心して電車に乗れる。運転士にとっても、万が一のミスをしても大事に至らないという心強さを感じている。
しかし、そのシステムが運転士にストレスを与えるらしい。
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