スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
他社に先駆けてインド市場に進出したスズキは、今や世界中の自動車メーカーから羨望の眼差しを浴びている。同社の成功の裏側にあったものとは……?
ASEANへの足がかり
さらに2015年6月、スズキはマレーシアのプロトンとの提携を発表した(関連リンク)。マレーシアには国策で作られた自動車メーカーが2社ある。プロトンとプロドゥアである。中型車と大型車はプロトンが、小型車をプロドゥアが作る方針でスタートしたこの2社は、現在では競合関係になっており、プロドゥアの筆頭株主がダイハツなのだ。つまりプロトンとプロドゥアの戦いはスズキとダイハツの代理戦争に発展しそうなのである。
現状のマーケットはプロドゥア有利に展開している。小型車作りのノウハウがあるダイハツの後ろ盾があるプロドゥアが有利になるのは当然で、プロトンはこの状況を脱するためにスズキとの提携を図った。プロトン車の市場競争力が向上することは間違いない。
では、この提携がスズキにとってどんな意味があるかを考えてみたい。マレーシアはタイやインドネシアを含むASEANの一員で、ASEANの中では関税がかからない。つまり、スズキはこの提携でASEANの400万台マーケットへの橋頭堡が築けることになるのだ。
インドでの優勢に加えて、ASEANへの新たな足がかり。2015年の今、スズキほど明るい未来が見えている自動車メーカーはほかにない。
振り返ってみると面白いのは、世界シェアトップ争い3社のうち、フォルクスワーゲンとGMはかつてスズキとアライアンスを組んでいたことだ。GMはともかく、フォルクスワーゲンについてはスズキの技術を高く評価しての提携だった。もしフォルクスワーゲンが欲した通り、スズキを傘下に組み入れてグループの一員としていたら、今ごろはトヨタもGMも歯が立たない絶対王者として君臨していたに違いない。
しかし、フォルクスワーゲンはイコールパートナーであったはずのスズキを支配すると言い出してスズキの逆鱗に触れた。
もし、トップ3社のうちどこかが、スズキを傘下に組み入れることができたら、三つ巴の戦いは終焉するだろう。スズキがこのまま単独で世界マーケットを戦っていくのか、どこかと提携するかは分からないが、自動車業界のワイルドカードとして今後注目を集めていくはずだ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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