スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
他社に先駆けてインド市場に進出したスズキは、今や世界中の自動車メーカーから羨望の眼差しを浴びている。同社の成功の裏側にあったものとは……?
インドに新会社を設立した理由
スズキはインド政府の国民車構想に則って、インド政府76%、スズキ24%の出資で立ち上げたマルチ・ウドヨク社で、軽自動車「アルト」のエンジンを800ccに拡大し、インド国内で生産した「マルチ800」として売り出す。1946年設計の走るシーラカンス、アンバサダーとの性能差は誰の目にも明らかで、なおかつ価格的にもアンバサダーの3分の2でデビューしたマルチ800はインド市場を席巻していく。ピーク時には8割をスズキ車が占めていたという話も耳にしたことがある。
インド経済が改革に舵を切った1991年以降、世界中のメーカーが堰を切ったようにインドマーケットに流れ込んでいる。ルノー、GM、ダイムラー(ベンツ)、ホンダ、フィアット、ヒュンダイ、トヨタ、フォード、シュコダ(フォルクスワーゲン傘下)、BMW、三菱、マツダ、ボルボ、デーウ……という具合だ。これにインドの民族系メーカーであるヒンダスタン、タタ、マヒンドラ、フォースが加わって、マーケット争奪戦が過熱しているのだ。
このインド自動車戦争の中で、スズキはそのシェアを徐々に落としつつある。いくら先駆者利益があろうとも、寡占状況であったときとは状況が違う。スズキは他社の追撃を振り切るために、スズキ本社主導で500億円の工場新設投資を行い、スズキモーター・グジャラード・プライベート社を立ち上げ、既存工場と合わせて年産100万台体制を敷いた。300万台のマーケットで100万台の生産体制がどれほどのことを意味するかは言うまでもない。
ただ、普通に考えればインド政府と長年の信頼を築いてきたマルチ・スズキ社が主体となるべき場面である。なぜ、スズキは単独出資をしたのだろうか。
マルチ・スズキが投資主体になれば、共同出資者全てが持ち株比率に応じた増資を行わないと、バランスが取れない。スズキだけが投資額を増やせば、他株主の持ち株比率が薄まってしまう。もちろん持ち株比率に応じた投資ができればいうことはないが、全投資者の足並みが揃うまで待っていたのではスピードが足りない。だからと言ってスズキの投資額を増やしすぎることで、足並みが乱れることは警戒すべきだろう。こうした状況を鑑みて、スズキは新会社を設立しての設備投資に踏み切り、マルチ・スズキの余力は広大なインドマーケットでの販売店整備に振り向けることにしたのである。
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