荷物検査は本質ではない 東海道新幹線火災から考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
6月30日、東京発新大阪行「のぞみ225号」の1号車で男が焼身自殺を図って死亡した。巻き込まれた女性が死亡。20人以上が重軽傷。一部報道では東京オリンピックの防犯に言及し「新幹線のテロ対策の必要性」「荷物検査」を論じている。しかしこれは過剰な反応だ。悪意を持つ者はどんな対策もすり抜ける。
どんな対策も悪意と自殺は防げない
今回の事故報道で「新幹線にも手荷物検査が必要か」という指摘が見られる。しかしこれはまったく馬鹿げた話である。問題の本質はそこではない。本件は悪意による事故であって、悪意は未然に防げない。むしろ悪意による犯行が発生した後、被害を最小にするための方策を検討すべきだろう。
NKKの報道によれば、ドーバー海峡を通過するユーロスターはすべての乗客に手荷物検査、金属探知機の通過が義務付けられている。インドの首都・ニューデリーの地下鉄では、改札通過前に金属探知機による検査があるという。
中国では鉄道の駅に入る前に手荷物検査と本人確認手続きがあるという。春節の大混雑の報道を見ると、100%実施されているか私には疑わしい。厳格な検査だから混雑しているかもしれない。しかし2011年の中国高速鉄道脱線事故と後処理の報道を見た限りでは、そもそも国の鉄道に対する安全意識が疑問ではある。あきれたことに、中国は「あの事故は時速250キロメートル以下だ。中国も新幹線の死亡事故はゼロ」と主張しているらしい(関連リンク)。
このように海外では高速鉄道に手荷物検査がある。だから日本でも実施すべき、という議論は馬鹿げている。本質的な意味を考えよう。なぜ手荷物検査をするか、犯罪を防ぐためだ。では犯罪は高速鉄道だけで起きているか。そんなことはない。私たちは1995年の地下鉄サリン事件を忘れてはいない。2003年の韓国の大邱地下鉄放火事件を覚えている人もいるだろう。
新幹線に手荷物検査が必要というなら、東京の地下鉄の乗客すべてに必要だ。相互乗り入れ先を考えれば大手私鉄すべてで乗車前検査が必要になってしまう。そして、手荷物検査があれば安全だ、という認識もまた幻想だ。
航空機に搭乗するときは荷物検査がある。事故や犯罪が墜落に直結するから仕方ない。乗客すべてに善意があれば不要な検査である。確かに荷物検査はハイジャック防止に効果的かもしれない。しかし、荷物検査をしたから100%安心とは言えない。つい4カ月ほど前、ジャーマンウイングス9525便はパイロットの故意によって墜落した。同様の事故は2013年11月にもLAMモザンビーク航空で起きている。どんな安全対策をしたとしても、故意に行おうとする者に対しては限界がある。
加えて、手荷物検査が完璧かというと、そうでもない。私が国内線を利用して帰宅したとき、手持ちのバッグの底から飲みかけのお茶が入ったペットボトルが出てきた。液体の持ち込みは禁止されており、荷物検査も受けた。これには私自身がビックリした。手荷物検査は完璧ではないのだ。ただし、テロなどを起こす者は、たまたま見つかってしまうリスクを回避するだろう。その程度の心理的効果があるだけだ。
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