荷物検査は本質ではない 東海道新幹線火災から考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
6月30日、東京発新大阪行「のぞみ225号」の1号車で男が焼身自殺を図って死亡した。巻き込まれた女性が死亡。20人以上が重軽傷。一部報道では東京オリンピックの防犯に言及し「新幹線のテロ対策の必要性」「荷物検査」を論じている。しかしこれは過剰な反応だ。悪意を持つ者はどんな対策もすり抜ける。
運転士の対応を賞賛しよう
JR東海だって東海道新幹線を100%安全だとは本気で考えていない。だから各車両に防犯カメラと消火器2台を設置している。この消火器が今回の事故で役に立った。乗務員の対応も見事だった。NHKなどの報道によると、11時40分ごろに2号車のトイレで非常ボタンが押され、それを認知した運転手が列車を緊急停止させ、消火器で鎮火させている。当然の仕事とはいえ、目の前で人が燃えている状況だ。冷静な対処は賞賛に値する。
安全対策の徹底は否定しない。しかし、事故を未然に防ぐ努力と同じく、事故が発生した後の対策も重要だ。消火器の備えと乗務員の迅速な対処のおかげで延焼は防げた。それがなければ有害な煙はさらに車内に充満して被害が拡大した恐れがある。
東海道新幹線について言うと、座席や車体に燃えにくい素材を使っている。消火器も設置され、それを扱う乗務員の訓練も効果的だった。だから今回の焼身自殺では、延焼は当該部分のみで済んだ。女性1人が亡くなったことは残念で、彼らに深い傷を残したかもしれない。その意味では、今後は乗務員、そして救出された乗客の皆さんの心のケアが必要だ。
どんなに安全対策を施したとしても、悪意はそれをすり抜ける。ホームドアを設置したところで、本気で自殺したい人は乗り越えるだろうし、駅以外の場所を選ぶだろう。今回の事件は、手荷物検査があったら防げたかもしれないし、防げなかったかもしれない。駅で販売するペットボトルと同じ容器で有害物質を持ち込まれたら判別できない。
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