荷物検査は本質ではない 東海道新幹線火災から考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
6月30日、東京発新大阪行「のぞみ225号」の1号車で男が焼身自殺を図って死亡した。巻き込まれた女性が死亡。20人以上が重軽傷。一部報道では東京オリンピックの防犯に言及し「新幹線のテロ対策の必要性」「荷物検査」を論じている。しかしこれは過剰な反応だ。悪意を持つ者はどんな対策もすり抜ける。
事後対策に力を入れるべき
しかし、手荷物検査の効果が薄いからといって、今後の対策が不要というわけではない。事前の対策に限界があるなら、事後の対策の強化を検討すべきだ。飛行機は墜落したら事後の対処のしようがない。だから事前の対策強化が必要だろう。列車は事前対策に限界がある半面、事後の対策をする余地がある。
火災時に煙を強制排気する機能があれば、乗客が煙を吸う被害が減らせたかもしれない。消火器だけではなく、スプリンクラーを設置してたら、もっと早く消火できたかもしれない。スプリンクラーは車体重量を増やすため設置は難しいと思う。ならば、消火器を乗客に分かりやすい場所に設置するという方法もある。もちろん小型軽量、安価な消火剤散布システムの開発も待たれる。
そしてなによりも、自殺者の不審な挙動をもっと早く察知する方策を検討すべきだ。焼身自殺者が10リットル入りのポリタンクという不自然な物を持っていた。それをもっと早く発見できたら、さらに被害を小さくできたのではないか。ホーム上の駅員の増員や、1列車あたり数人という乗務員の体制についても、2両に1人程度へ増員するように変更した方がいいかもしれない。それは危険の察知だけではなく、旅客案内サービスの向上にもつながるだろう。
安全神話を信じるほど危険な行為はない。神話などあてにならない。人の世界には、安全への努力があるだけだ。
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