西武鉄道の銀河鉄道999プロジェクトに「原作愛」はあるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
アニメ大好きな西武鉄道が、また新しいプロジェクトを立ち上げた。しかし今回は主役ではなく参加者側。「銀河鉄道999 現実化プロジェクト」という大きな枠組みの中で、鉄道現業部門として参画する。夢は大きく広がるけれど、原作ファンとしては心配なところもある。
関係者は原作を全部読め! 話はそれからだ
一方で、恐らく原作を読んでいない、あるいは原作を基にしたアニメ映画も見ていないと思われる登壇者もいた。そう感じた理由は、司会進行役の松澤千晶さんとの掛け合いだ。松澤さんは銀河鉄道999のファンだという。ちなみにホリプロ所属で、担当マネージャーは鉄道ファンとしても知られる南田裕介氏。南田氏も観客席にいた。松澤さんは司会でありながらも読者の代表として発言し、頑張っていた。
登壇者の中で、その松澤さんのコメントや問い掛けに対し、どうもかみ合わない人物がいた。食堂車の座席のモケットの色が分からない、スクリーンに表示された機関車内部のイラストを見て、これは先頭車でしたっけ、などととぼけた発言をする。「登場人物の墓参りツアー」なら、人気キャラクターの「化石の戦士」や冥王星に言及してほしかった。
そして観覧者からの意見として「銀河鉄道999自体を知らない人が多い。ネットカフェを3軒回っても置いていない。原作そのものの啓蒙はどうするのか」という趣旨の質問があったけれど、納得できる回答ではなかった。
しかしビジネススキームについては饒舌で、あれもできる、これも可能、多くの人々にかかわってもらいたいと抱負を語ってくれた。もちろんこの場においてその人物の役割は、ビジネスとしての可能性の模索であり、このプロジェクトには欠かせない立場である。だからといって、銀河鉄道999を掲げてビジネスを展開しようというときに「作品を読んでいない、観ていない」でいいのか。
船頭多くして船山に上る。銀河鉄道999はどこへ向かって走るのか。今後、原作を知らない、リスペクトしていない人や企業がお金のにおいで集まって、原作ファンが置き去りになってしまっては、プロジェクトの魅力に欠ける。
銀河鉄道999の実現化といえば、前田建設 ファンタジー営業部が欠かせない。同社は本物の建設会社でありながら、メガロポリス中央ステーション銀河超特急発着用の高架橋一式を、予算37億円、工期3年3カ月で引き受けると発表して話題となった。しかし今回の発表会やカンファレンスでは名前が出なかった。
例えば、大井川鐵道で運行している「きかんしゃトーマス」は(関連記事)、トーマスが登場する前に、千頭駅に「ヒロ」を登場させて、原作映画の続きを再現している。そのエピソードが分かっているからできたことで、原作ファンの感動を引き立てている。2015年は鉱山鉄道の機関車「ラスティー」を仕立て、鉱山鉄道に見立てた井川線内に置いた。原作ファンを感動させる仕組みは、原作を知らないでできるわけがない。
銀河鉄道999を実現化するプロジェクトはおもしろい。夢がある。その夢をさまさないでほしい。とりあえず関係者は全員、原作アンドロメダ編全18巻(少年画報社版、小学館版は全14巻)を読みなさい。テレビ版をすべて見ろとは言わないけれど、せめて劇場版1作目くらいは鑑賞しなさい。金集めはそれからだ。
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