日本人選手に決定力がないと言うあなたに:「仕事人」か「会社人」(5/5 ページ)
スポーツの世界では「日本は組織力に優れているが、個人の力となるといまひとつぜい弱で、大事なところで勝ちを逃す」といったことがよく言われている。では、自分自身は「個として強い職業人」なのか。考えてみたところ……。
定年が35歳だとしたら
プロスポーツ選手が第一線で活躍できる期間はとても短い。30代後半で現役を続けられる人はごくまれです。それと同じように、もし、いまのあなたの会社が35歳定年制だとしたらどうでしょう。おそらく、緊張感をもって1日1日仕事に向かうでしょう。定年後も食っていくための準備を必死になってやるはずです。人間、終わりがわかっていれば、意識が覚醒するものです。
おりしも先日、日本経済新聞のインタビュー記事(2015年7月9日付朝刊)でイタリア・プロサッカーチームACミランに所属する本田圭佑選手は次のように語っていました。
「もう29歳になりましたから。恐ろしいですね。ええ。日経新聞を読んでる方には“若いくせに何を言っている”といわれそうですが、サッカー選手として、29歳はキャリアの先が見えてくる年齢なわけで。そのせいもあってか、時間に対する考え方、1年の重みをすごい感じるようになって」。
例えば、会社員であるあなたは、「35歳でFA(フリーエージェント)宣言する!」と心に決めてみてはどうでしょう。そのタイミングで起業するもよし、転職するもよし、あるいはFA宣言したものの結果的に現在の会社に残留するというのもよし。個としていやがうえにも牙(きば)が出てくると思います。
ムラ社会の中でそこそこ安住していくことを「美しい」とするか
私自身は遅ればせながら、38歳のときに独立を決意し、40歳で実行しました。サラリーマン生活最後の2年間というものは、ほんとうに感覚が鋭敏になった期間でした。これまで雇われサラリーマンのルーチンワークとしてうんざりぎみの交通費の伝票書きひとつにしても、それがどんな書式になっているのか、それがどんな処理プロセスに乗っているのか、それらを在職中にくまなくみておかねばなりません。この先、自営業を始める私にとってはそれもこれも自分で把握すべき管理の仕組みになるのですから。
独立して無我夢中で走ってきたら、いつのまにか干支が1周りしていました。20代、30代は自分なりにとがって仕事をしていたと思っていました。しかしいま振り返ると、それはただ表面的にギザギザしていただけでした。ですが、独立後の40代はいやがうえにも自分の内側から牙が出てきました。そして50代。個の職業人としてやりたいことは山ほどあります。その牙で彫刻作品をいくつも仕上げていきたい。ようやく職業人として、リスクを怖がらず、シュートを何本も打ってやるという状態になりました。
日本の場合、強い個を生み出さない組織・文化というのが問題として取り上げられますが、実は、「強い個になんてなりたくないよ」という個が多いのも事実。私が本稿で言いたい「強い個」とは、必ずしも仕事をがむしゃらにがんばって成り上がる強さとか、そういう外面的でマッチョなタフネスではないのですが。いずれにしても、基本的にムラ社会の中でそこそこの居場所を見つけて安住しているのがラクなのはラクです。でも、そんなだましだましの安住を願う仕事人生を「美しい」と思えるかどうか。最終的には、自分の哲学や美意識に投げかけていく問題なのだと思います。
「個として強い」働き方・生き方をすることを自分は選ぶか───あわただしい生活のさなかでときどき自問したテーマです。
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