日本人のここがズレている! このままでは「観光立国」になれません:水曜インタビュー劇場(観光公演)(3/8 ページ)
「訪日客が1300万人を突破」といったニュースを目にすると、「日本は観光立国になったなあ」と思われる人もいるだろうが、本当にそうなのか。文化財を修繕する小西美術工藝社のアトキンソン社長は「日本は『観光後進国』だ」と指摘する。その意味とは……。
マンホールや自販機は“観光資源”になる?
アトキンソン: 世界の人口は72億人。日本の「おもてなし」が観光動機になっているのであれば、すでに1300万人以上の外国人が訪れていますよ。日本から発信されている「おもてなし」はネット上でたくさん見ることができますが、海外メディアで「おもてなし」を紹介している情報はほとんどありません。なぜか? 日本人が思っているほど「おもてなし」は、残念ながら世界から注目されていないからです。
このようなことを言うと、不快に感じられる人もいるでしょう。私自信も十数年、日本で茶道をたしなんできたので、「おもてなし」を否定するつもりは全くありません。しかし、日本人が「良い」と思っていることが、外国人の「観光動機」にならないことも認識しなければいけません。
土肥: 外国人観光客にアピールできる強みは「おもてなし」だと思っていたのに……ということはズレているということですか。
アトキンソン: ズレているのは「おもてなし」だけではありません。例えば、マンホールも“観光資源”になると思っている人がいますよね。日本を訪れたフランス人観光客が、日本のマンホールをネット上で公開して、ちょっと話題になりました。さまざまな絵が描かれているので、マンホールもクールジャパンの仲間入りといった感じで。
小さなことをコツコツとアピールする姿勢を否定するつもりはありません。外国人からすれば、ユニークなマンホールばかりなので、ついついカメラを向けたくなるのでしょう。でも、それでビジネスが成立するでしょうか。若い人たちはマンホールを見るために日本にやって来るかもしれませんが、富裕層はやって来るでしょうか。マンホール観光が悪いわけではないですが、ただ「面白い」というだけの話。
日本人も海外旅行をして、ちょっと珍しいモノがあればカメラのレンズを向けますよね。それと同じこと。写真を撮るだけでは、経済効果はあまり期待できません。日本人のズレはマンホールだけでなく、自販機でも同じようなことをしていますよね。海外には日本のようにたくさんの自販機が並んでいないので、物珍しさもあって話題になる。見るだけだったら無料。もちろんちょっと買ってみようという人も多いと思うのですが、ジュースを手にしておしまい。数百円ほどしかお金を落としてくれません。
ちょっと考えれば、マンホールや自販機は旅行の動機にならないはずなのに、少し話題になっただけでそれを強くアピールする。一部のマニアに喜んでいただくことも大切ですが、多くの外国人観光客を引きつける観光戦略を考えなければいけません。
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