ヘタすりゃワーキングプア!? いまどきの印税事情:出版社のトイレで考えた本の話(1/5 ページ)
本の著者はどのくらいの印税を手にしているのだろうか。人気作家になれば「印税生活」を送れるかもしれないが、そんな夢を実現できるのはひと握り。ひょっとしたら、ワーキングプアに陥っている人も少なくないかも……。
出版社のトイレで考えた本の話:
出版界全体は、紙から電子へとフィールドを広げつつある。その一方で、従来の紙の書籍・雑誌の市場は縮小を余儀なくされている。アマゾンがほとんどの出版社にとって「単店での売上一番店」となる中、グーグルやアップルなど、従来は接点のなかった会社も次々とプレイヤーとして参入してくる。これから本はどうなるのか。
このコラムでは、某出版社で主にビジネス書・実用書などを手がける現役編集者が、忙しい日常の中、少し立ち止まって、そうした「出版や本を取り巻くあれこれ」を語っていく。
「夢の印税生活」。いい響きだ。文字づらからしてロマンがあふれている。あふれまくっている。印税。それは選ばれた知的労働者だけが受け取れる最高のご褒美である。
では本の著者は、実際どのくらいの印税を手にすることができるのか。印税の計算式は「単価×印税率×初版部数」である。例えば、1400円の本を5000部刷って、印税率は10%だとすると、印税は1400円×10%×5000部=70万円(+消費税)だ。
通常、本1冊の執筆には2カ月から半年ぐらいはかかるので、2カ月で書いたとしても、著者が受け取るのは1カ月あたり額面で35万円となる。半年かかれば1カ月11万6667円。東京23区在住の30歳独身であれば、生活保護費は13万円台くらいなので、それよりも低いことになる。リアルにワーキングプアである。年間5冊書いても350万円だ。
もちろんこの数字は、初版で終わってしまい、重版(増刷)がされない場合のシミュレーションだが(そもそも4冊連続で初版止まりの著者が5冊目を出せる確率は最近だと限りなくゼロに近い)、最近だと初版が3500部とか4000部というように、部数がもっと下がる場合もある。とりあえず、初版止まりになってしまった本の印税は、単純な労働の対価としてはちょっと、いや、かなり厳しい金額である。
会社の経営者やコンサルタント、学校の先生など「執筆以外の本業」を持っている人であれば、本を出すことが本業によい影響をもたらすことも多々ある。しかし、作家あるいは自分の名前で本を書いているライターにとっては受難の時代かもしれない。
先ほどの計算で印税率は10%としたが、「初版が8%で重版以降10%」「初版6%、1万部を超えたら8%、2万部超えで10%」など、実際の条件はさまざまだ。出版社からすると、本はやはり初版発行のときに最もお金がかかる。つまりリスクが高いので、ここのリスクを下げる意味で、段階的な条件をつける場合が多い。
ただ、ほとんどの著者にとって、おおむね10%が上限となるのは変わらない。出版経験が2〜3冊の著者でも、10冊以上を書いているベテラン著者でもだ。初めて本を出す著者の場合、ベテランと比較しても手のかかることが多いので、その分を勘案して印税は8%ぐらいで固定とすることも多い。通常は「本を出せば必ず売れる」というごく限られたベストセラー著者だけが、12%、13%といった“特別待遇”を受けることができる。
関連記事
- 同じような本が何冊も出てくるワケ
書店に並んでいる本を見て、「よく似たモノが並んでいるなあ」と感じたことがある人も多いのでは。例えば、ピケティの本が話題になると、それに関連する本が相次いで刊行されたが、なぜこうした現象が起きるのか。現役の書籍編集者によると……。 - 「ゴーストライター」のホントのお仕事
「ゴーストライター」と聞いて、「なんだか怪しいなあ」と感じた人も多いのでは。しかし、ビジネス書や実用書などの世界では、非常にポピュラーな存在だ。なぜなら……。 - 知らず知らずのうちに“あの本”を読んでいる? ビジネス書の10年を振り返る
ビジネス書のベストセラーをみると、ちょっと気になることがあった。10年ほど前には「お金」に関する本が上位に並んでいるのに、いまは少ない。5年ほど前には「仕事術」に関する本が目立っていたのに、いまは少ない。その理由は……。 - 朝日やNHKが選ばれない時代に、私たちが注意しなければいけないこと
インターネットが勃興し、新聞やテレビといった旧型マスメディアが衰退しつつあると言われている。結果、何が変わったのか。筆者の烏賀陽氏は「ニュース・センターが消滅した」という。その意味は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.