ヘタすりゃワーキングプア!? いまどきの印税事情:出版社のトイレで考えた本の話(2/5 ページ)
本の著者はどのくらいの印税を手にしているのだろうか。人気作家になれば「印税生活」を送れるかもしれないが、そんな夢を実現できるのはひと握り。ひょっとしたら、ワーキングプアに陥っている人も少なくないかも……。
もう1つの計算方式
先ほどご紹介した計算は、業界用語で「発行部数方式(発行方式)」と呼ばれることもある。実はビジネス書・実用書を中心に「実売部数方式(実売方式)」というもう1つの計算方式が増えているのだ。ひとことで言えば、発行方式は「刷った部数」に単価と印税率をかけて計算するが、実売方式は「売れた部数」に単価と印税率をかけて金額を出す。
発行方式がメインの出版社は、実売方式を採用することはほとんどないが、逆に実売方式を採用する出版社は、契約の9割以上が実売方式だ。一般的には、実売方式はリスクを下げられるぶん、初版や重版で発行方式よりも思い切った部数を刷れたり、出版自体のハードルを下げたりする効果があると言われている。
実売方式の計算はちょっと複雑なので、図を使って説明しよう。通常は6カ月ごとに計算月がくる。計算月の月末に、過去6カ月間の倉庫からの「総出荷冊数」から「総返品冊数」を引いた数字を「実売部数」として計算する。POSデータなどの「実際に売れた数」ではないので、厳密に言えば書店の店頭にある在庫冊数も「実売部数」に含まれている。
経験上、「実売方式」を説明した著者から真っ先に受ける質問は、だいたい次の2つだ。
(1)印税は発売して6カ月後まで払われないの?
実売方式だと、印税は発売6カ月後まで計算されない。支払われるのはさらにその1カ月か2カ月後である。それはいくらなんでも遅過ぎでしょ、ということで通常は本を発売した1〜2カ月後に「出版社として、これくらいの部数は売れると保証して、その分の印税を先払いします」というやり方をとる。この部数は「保証部数」と呼ばれる。保証部数は「初版部数の半分」、あるいは一律に「3000部」「4000部」といった部数に設定したりする。
(2)逆ざやになったら、お金は返さなきゃならないの?
実売方式の計算だと、例えば発行の6カ月後で締めたときは3000部が「実売部数」となったが、その後に返品が大量にあって、1年後に締めたら2800部になってしまうという場合もありうる。そのときは、著者から「逆ざや」の200部分を返してもらうのか? 結論から言えば、普通はこのように「逆ざや」になったとしても、出版社が著者に「払った分を返してくれ」と言うことはまずない。
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