ヘタすりゃワーキングプア!? いまどきの印税事情:出版社のトイレで考えた本の話(5/5 ページ)
本の著者はどのくらいの印税を手にしているのだろうか。人気作家になれば「印税生活」を送れるかもしれないが、そんな夢を実現できるのはひと握り。ひょっとしたら、ワーキングプアに陥っている人も少なくないかも……。
トラブル例 その3
ライターが著者を取材して原稿をつくる形で進め、取材前に「初版は先生とライターさんが2:8、重版以降は8:2にしましょう」と話して了解を得ていた。ライターから原稿が上がってきたが、こだわりのある著者のため、最終的に著者本人がかなり手を入れることになった。で、契約書を交わす段になって、著者からこう言われる。「結局、これだけ手を入れることになったんだから、自分で書いたのと変わらない。だから僕の初版印税は最低でも8%ぐらいにしてもらわないと困る」。ええええええッッ、そんなぁぁぁ……。
落としどころとして、印税条件は当初通りだが、著者に「編集協力料」というよく分からない名目で10万円ほどを余分に払うことになった。
これらのトラブルには共通点がある。いずれも本の制作がかなり進んだ段階ではじめて契約を結ぼうとしたことだ。出版界の悪しき伝統ともいえるが、特に古い体質の出版社は、契約書をなかなか結ばないことが多い。ひどいときは契約書を取り交わしてないことすらある(さすがに最近はそこまでルーズな出版社は珍しいが)。昔はお互いの信用で本を出していたから、「契約書を結ぶのは無粋だ」という考え方が根底にあるのかもしれない。
民法上では確かに口頭でも契約は成立するのだが、あとで「言った、言わない」の話になったら、契約書がなければ泣き寝入りせざるを得ない。特に人気のある芸能人やスポーツ選手など、力関係でいえば出版社より著者サイドのほうが強い場合、「その1」のような理不尽なゴリ押しを事務所が平気ですることがある。こういう場合ほど、本格的に話が動き出す前に条件を明確にし、契約書を結んでおくことが大事である。
一方で、契約が早すぎて失敗することもある。執筆前ぐらいに契約を結び、いざ原稿が上がってきたら、ビジネス書のはずなのに「あの、これ、あんたのエッセイじゃん……」という場合もあるのだ。なので、本当は個人的には原稿が上がったあたりで締結したいところだが、実際はそれだと遅い。要は編集者として、書き手の能力の見極めと、原稿クオリティのコントロールがますます大事になる、という至極あたりまえの話で記事を締めたいと思う。
著者プロフィール:堺文平(さかい・ぶんぺい)
編集系の制作会社を経て、中小および大手出版社で主にビジネス書・実用書・語学書や雑誌の編集制作などを担当し、断りたかったけど断りきれずにウェブ担当も手がけてしまう雑食系編集者。なし崩しと安酒が飲める話と眠気に弱い団塊ジュニア世代。
仕事を離れて読むのはサイエンス読み物、新書、マンガなどを少々。最近の趣味はダイエットおよびリバウンド。村山実・中村勝広・吉田義男(第3期)などが率いた暗黒時代の阪神タイガースで、甲子園での観戦勝率7割を誇ったことが人生における唯一の自慢である。
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