“iPhoneを振った”米Verizonが投入するキラーサービス──「V CAST Mobile TV」:MediaFLO Day 2007
発売を2カ月後に控えた米Appleの「iPhone」に強力なライバルが出現した。米Appleが手を組もうとして叶わなかった米国2番手のオペレーター、Verizon Wirelessが、新たな映像配信サービス「V CAST Mobile TV」に対応した携帯端末を発売したのだ。
米Verizon Wirelessは2007年3月、満を持してMediaFLOサービス「V CAST Mobile TV」を投入した。サービス開始当初の対応端末は、Samsung電子製の「SCH-u620」とLG電子製の「VX9400」の2モデル。米QUALCOMMが4月末に開催した「MediaFLO Day 2007」で、MediaFLOを活用した商用サービスを他社に先駆けて開始したVerizon Wirelessのショーン・ダーキン氏に話を聞いた。
米Appleが1月9日(現地時間)にMacworld Conference & Expoで披露した「iPhone」では、エレガントなデザインと先進的な操作性に加えて、iTunes Storeから購入した音楽、映画、テレビ番組などの動画を視聴できることが目玉機能として挙げられている。これに対抗するVerizonの新端末は、MediaFLOを利用したテレビ放送を視聴できることが特徴だ。
携帯電話向けのテレビ放送といえば、日本ですでに始まっているワンセグ放送(ISDB-T)を思い浮かべる人が多いだろう。だがMediaFLOは、このワンセグとはまた違う工夫が随所に盛り込まれた、ユニークなサービスだ。
「V CASTこそがiTunesに対する我々の答え」とダーキン氏
Verizon Wirelessでプロダクトマネージャーを務めるショーン・ダーキン氏は、同社の携帯電話の発展を振り返り、「2001年からQUALCOMMのBREWプラットフォームを採用し始めた。Verizonの端末は、QUALCOMMの技術革新とともに発展してきた」と説明する。
現在同社のデータサービスプログラム「Get It Now」に対応した端末は3500万台が稼働しており、携帯電話契約者の半数以上がデータサービスを利用しているという。この3年でアプリケーションのダウンロード数は4倍以上に増えている。
そのVerizonが立ち上げた音楽配信及び映像配信のサービスが「V CAST」だ。ダーキン氏は「これがiTunesに対する我々の答えだった」と語気を強める。
Verizon Wirelessには、iPhoneのキャリアパートナー交渉を(iPhoneの採用を決めた)Cingular Wirelessより先に開始したものの、結局は断ったという経緯がある。ダーキン氏が“iTunes”を引き合いに出したのは、V CASTがiPhoneの音楽や映像コンテンツ再生機能に対抗しうるサービスであることをアピールする意味あいもあるようだ。
iPhoneはiTunes Store経由で販売されるテレビ番組を視聴できるが、コンテンツをダウンロードするためにはPCが必要になる。これに対してV CASTはストリーミング形式での配信になるものの、「音楽や映像コンテンツを、PCに頼ることなく“探し、プレビューし、ダウンロードし、再生できる”」のがiPhoneと異なる点だ。
そんなVerizonが、「V CAST」ブランドの次の段階のサービスとして投入するのが、MediaFLOを使った放送サービス「V CAST Mobile TV」だ。カリフォルニア州ロサンゼルス市などの一部の地域で、4月の初めからサービスを開始した。
ワンセグと“似て非なる”放送サービス
iTunesは、気に入った番組を購入する必要があるが、「V CAST Mobile TV」は、ケーブルテレビやスカイパーフェクTVのように、月額料金を払えば“契約したチャンネルを見放題”という形で提供される。
無料のワンセグ放送を視聴できる日本では、放送が有料と聞いただけで抵抗を感じる人もいるかもしれない。しかし、価格は5チャンネルを視聴できる基本コースで月額13ドル(約1560円弱)、全8チャンネルを視聴できる拡張コースで月額15ドル(約1800円弱)だ。さらにパケット定額サービスを組み合わせたプランもあり、こちらも月額25ドル(約3000円弱)ほど。実はパケット定額料金の上限価格と比べても安いくらいなのだ。
iPhoneとも比較しても、iTunes Storeで販売しているテレビ番組は1番組1.99ドル均一なので、V CAST Mobile TVで6~7番組も見れば軽くそれを上回る計算になる。
ちなみにMediaFLOの技術そのものは、最大で映像番組20チャンネル、オーディオ番組が10チャンネル分を配信でき、ワンセグよりもはるかに多くの放送局が参入できることになる(実際にはこの帯域を複数の携帯電話キャリア間で共有するため、すべての帯域が使えるわけではないが、Verizon Wirelessはサービス開始後にチャンネルを増やす可能性も示唆している)。
もちろん、放送というだけあってスポーツ・イベントなどの生中継を見ることも可能。これもiPhoneにはないコンテンツの楽しみ方だ。
ちなみにワンセグ放送との比較では、軽快で使い勝手の工夫されたEPG(電子番組表)機能や、わずか2秒のチャンネル切り替えといった点が強みとして挙げられる。
また文字や画像などのデータを配信するデータ放送(IPデータキャスティング)や音声のみの放送、空き帯域を使って番組データを携帯電話(のメモリ)に配信するクリップキャスティングといった放送も技術的には可能だ。ただしVerizonは今のところ、映像の放送とデータ放送以外は行っていない。
逆にワンセグと比べて弱いところもある。カバーエリアが極めて限られている点や、番組を録画できない点だ。
もっとも、前者は技術的な問題ではなく、今後、エリアを順次拡張していくことで解決していく問題だ。後者も技術的問題というよりは著作権的な配慮で、今後放送局との話し合いが進むにつれ、少しづつ変わってくるかもしれない。
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