ケータイ活用に舵を切り始めた日本PTA:小寺信良「ケータイの力学」
先日姫路市で開催された日本PTA全国協議会 近畿ブロック研究大会・特別分科会。その会場では、ケータイやPCのネットに子どもたちを適応させる必要があること、段階を付けて指導する必要があることなどが改めて確認された。PTAのケータイの見方も変わってきているようだ。
11月11日、社団法人日本PTA全国協議会 近畿ブロック研究大会・特別分科会「子どものネットとケータイを考える」が、姫路市の兵庫県武道館で行なわれた。筆者はこの模様のUstream中継を頼まれたので、機材一式を背負って出かけていった。
これまで、我々MIAUや安心ネットづくり促進協議会(以下安心ネット)では、子供へのケータイリテラシー啓蒙の重要性を説いてきた。学校は文科省の後押しもあって、教育を行なうことに関してだいぶ前向きになってきているが、保護者の意識はまだまだ全然低い。2009年も安心ネットで地方の保護者向けシンポジウムをかなりやってきたが、600人の会場で観客が30人とか、惨憺たる有様であった。
しかし今回の特別分科会は、PTA側からケータイをテーマでやろう、と動いてきた。これはかなり画期的な話である。仕掛けたのは日本PTA全国協議会前会長、現顧問の曽我邦彦氏だ。
日本PTAは全国的な組織だが、必ずしも一枚岩ではない。地域によってケータイへの見方もかなり違っており、子どものケータイ所持に対していまだ抵抗感を示す地域も少なからずある。さらに近畿地方というのは、必ずしもICT教育に関して環境整備が進んでいる地域ではない。日経パソコンの全国市区町村公立学校情報化ランキングのまとめによれば、公立の小中高のうち評価項目「インフラ整備」と「教員指導力」において、下位5位のうちに近畿地方の県が必ず入っている。大阪という大都市圏でありながら、イメージと実態のギャップがかなり大きいように思える。
その中で、今回の特別分科会は行なわれた。シンポジウムの模様は、安心ネットのUstreamページからご覧いただける。
実はケータイが一番ましかもしれない
シンポジウムの中で語られたのは、もはやケータイとネットによって社会の姿が変わってしまった、それに子どもたちを適応させる必要がある、ということである。しかしいきなりフルスロットルのケータイをポンと渡すというのはダメで、段階を付けて指導するべきことが、改めて確認された。
ケータイでは、キャリア側のフィルタリング導入により、子どもたちをだまして男子からは金を、女子からは体を奪う悪質なサイトに対してのアクセス制限ができる。PCにフィルタリングソフトを導入しても同様だ。今ネットにアクセスできる端末は、PCとケータイが筆頭にあげられるが、この事情は間もなく変わってくる可能性もある。例えば地デジ対応テレビやHDDレコーダー、電子書籍端末、あるいはiPadのようなタブレット製品が、家庭内においてはネットアクセスの主流になるかもしれない。
これはスマートフォンにも言えることだが、Wi-Fiによる接続が可能な端末では、ケータイキャリアを介さずにネットにアクセスしていくので、キャリアによるフィルタリングが無効になる。さらに家族全員が交代で使うようなケースがある端末は、PCのようにマルチアカウント機能を持たないものも多い。したがって、大人が便利なように抜け穴を作っていると、子どもに破られる可能性がある。
先日も筆者のiPadを小学生の娘がいつの間にか使っているので、びっくりしたことがある。筆者の監視下で使わせるためにパスワードは教えていなかったのだが、ネットとは関係ない別の機器のパスワードと似ていたため、そこから想像して開けてしまったようだ。恥ずかしながら筆者が子どもにパスワードを破られるという失態を演じたわけだが、子どもの想像力というか連想力というのに驚いた。
このようなヘタレな状態でネット全開にされることに比べたら、各個人で持つケータイをフィルタリングして使わせる方が、まだ管理がしやすい。子供がいる家庭でのAV機器ネット接続については、この先早急に議論し、対策を考えていく必要があるだろう。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。
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