もっと速く、スマホ時代の先へ行く――代表取締役COO 出澤氏に聞く 2015年のLINE(前編):新春インタビュー(2/2 ページ)
全世界で1億7400万の月間アクティブユーザー、そして日本では5400万人以上のユーザーを抱える巨大サービスの「LINE」。スマートフォン時代を象徴するサービスともいえるLINEは、今後どこに向かうのか。2015年4月から社長に就任する出澤剛氏に話を聞いた。
新規ユーザー獲得が終わっても、ARPU拡大は重視しない
―― LINEはスマートフォンの普及拡大期という追い風を受けて、急速にユーザーを増やしました。他方で、各種調査資料を見れば分かるとおり、2014年あたりからフィーチャーホンからスマートフォンへの移行速度が落ちてきている。その影響をどう考えていますか。
出澤氏 確かにそういった傾向はありますが、日本に関していえばスマホユーザーのほとんどに使っていただいている状況ですので、それほど懸念を感じてはいません。今後はまだLINEを使っていない年代層への展開を重視していきたい。いずれにせよ、新規ユーザーの積極的な獲得では海外の新興市場に移り、国内市場の今後はスマホの広がりに合わせてLINEユーザーが増えるという形になっていくと考えています。
―― 国内市場における急速な普及拡大期が終わったということは、事業的な次の段階は「ARPU(顧客平均収益 = Average Revenue Per User)の拡大」ということになるのでしょうか。
出澤氏 正直な話をしますと、今はまだ売り上げに関してはそれほど強くフォーカスしていません。国ごとの収益を追求していくといった段階ではない。優先順位で考えますと、まだグローバルでの新規ユーザー獲得を重視すべき時期です。
―― しかし日本をはじめLINE普及で先行した地域は、新規ユーザーの初期需要は順調に獲得した。となれば、一般的に考えれば、次は利益拡大の経営に移行する段階となりますが。
出澤氏 確かに日本とタイと台湾に関しては、トップシェアが取れています。ここではどのようなかじ取りをするのかといいますと、ARPUを上げたいというのではなく、LINEユーザーとの「接触時間を延ばす」「接触ポイントを増やす」、そして「サービスの多様化を進める」。このような点を重視しています。例えばゲームや電子書籍もそうですし、音楽配信も始まります。LINE Payなど決済サービスもそれが狙いです。エンタテイメントから生活サービスまで、とにかくお客様とLINEが関わる領域を増やしていく。
個々のLINEユーザーの「ARPUがどうか」「売り上げがどうか」というのは、確かにまったく意識していないかといえば嘘になりますが、それよりも優先順位が高い事項として、LINEのタッチポイント拡大があります。これが(日本における)新規ユーザー獲得の次の段階です。
―― これまでは新規ユーザー獲得という「横軸の広がり」だった。しかし次の段階は、ひとりひとりのお客様とLINEとの接触範囲や接触時間を広げる「縦軸の広がり」になるというわけですね。
出澤氏 ええ。しかし、もちろんLINEが何でもやればいい、というわけではありません。先ほど申し上げたLINEらしさは、まず重視しなければならない。そしてLINEの特徴は、ユーザーが持つ「仲のいい人間同士の関係性を預かっている」ところにある。このとても密度高い人間関係(ソーシャルグラフ)と、その上でのコミュニケーションをLINEは持っています。このLINEの特性を用いてユーザーの利益になるような新サービス/新事業であれば積極的に取り組みますし、そうでなければ進出しません。もうかるかもうからないかではなく、LINEの特性に合わせてお客様の利益や便利さにつながるかどうかが重要なのです。
―― 収益は狙うものではなく、後から付いてくればいい、と?
出澤氏 そこまで言い切ってしまうと、ちょっとかっこつけすぎですけれどね(笑)。しかし考え方として、ユーザーの利益と収益化の順序が逆になってしまうと、よいサービスは作れません。あくまでLINEユーザーの目線で、必然性のある機能・サービスを作っていく。その上でLINEを使っていただく時間が広げられればと考えています。
―― その考え方ですと、FacebookやGoogleなどのOTTプレーヤーがLINEの潜在的な競合相手になるかもしれませんね。
出澤氏 うーん、どうでしょうか。あまり彼らを競合相手として意識したことはありません。FacebookをやっているからLINEをやらないということはありませんし、Googleなどはもっとそうでしょう。よく「競合相手はどこですか」と聞かれるのですけれども、そもそもライバル企業を想定したことがないのですよ。
競争相手を考えてしまうと、「(競合の)あそこがやったら、この機能を入れなければならない」とか「ライバルを上まわる機能を追加していかなければならない」といった感じになってしまう。するとどうなるかというと、本当にユーザーが欲しいものから、どんどんかい離していってしまうのです。ライバル企業ではなくユーザーと向き合う姿勢でいないと、いいものは作れません。
―― なるほど。また今のLINEの立ち位置や資産で考えても、ほかのOTTプレーヤーや通信キャリアとは異なりますからね。
出澤氏 ええ。我々が預かっているソーシャルグラフと、その中での密度の高いコミュニケーション。この“ホットな関係性を持つ”というのは、他社にない(事業上の)ポイントだと思います。
(後編へ続く)
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