“海外”と“LIFE”に集中して取り組む――新社長 出澤氏が語るLINEの新戦略:佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)
LINEの代表取締役社長が、森川亮氏から出澤剛氏へと交代した。出澤氏の体制となって、LINEはどのように変わるのだろうか。また現在進めている「LIFE」プラットフォーム事業は、今後どのように変化するのだろうか?
今やスマートフォンに欠かせない存在となったコミュニケーションアプリ「LINE」。その運営会社であるLINEの代表取締役社長が、4月1日に森川亮氏から出澤剛氏へバトンタッチされた。出澤氏の体制となって、LINEはどのように変わるのだろうか。また現在進めている「LIFE」プラットフォーム事業は、今後どのように変化するのだろうか。社長に就任した出澤氏に話を聞いた。
出澤氏による新体制は2014年にできあがっていた?
スマートフォンに欠かせないコミュニケーションサービスとして、国内では多くの人が利用しているLINE。現在は日本だけでなく、台湾やタイなど海外でも広く人気を獲得しており、1月には月間アクティブユーザー数が1億8100万人に達しているほか、ゲームやコマース、最近では決済の分野にも進出するなど、LINEをプラットフォームとしてさまざまな取り組みを実施し、スマートフォン市場全体での存在感を高めている。
順調に事業拡大を続けるLINEだが、2014年12月、LINE事業の立ち上げから同社の成長をけん引してきた森川亮氏が代表取締役社長を勇退し、代表取締役COOであった出澤剛氏が社長に就任することが発表されたことは、驚きをもたらした。
だが実は、出澤氏の新社長就任に向けた動きは2014年4月から進められていた。この時期に出澤氏が代表権を持ち、森川氏の勇退発表までの間に、LINEの新しい経営体制が作られていったという。それゆえ社長交代したからといって現状のLINEの方針が大きく変わるわけではなく、むしろ2014年で発表された戦略が、出澤氏の体制によるLINEの新戦略であったといえそうだ。
そうしたことからLINEの核となる“コミュニケーションサービスとしてのLINE”に大きな変更はなく、従来通りユーザーの声を聞きながら、細かな点での改善を図っていると、出澤氏は話す。最近では入力したメッセージに合ったスタンプをサジェストしてくれる機能や、スタンプの押し間違えを防止するプレビュー機能、トークルームをフリーワードで検索できる機能など、さまざまな機能を取り入れて使い勝手の改善を図っている。
だが最近では、LINEのデザインやインターフェースをフラットなスタイルに変更したことに対し、ユーザーから賛否の声が上がっている。改変が全てのユーザーを満足させられるとは限らないが、出澤氏は「新しいものに変えると、前の方がよかったという声は一定数出てくるもの。ユーザーの声を聞きつつ、その最大公約数を捉えられる形で変更を入れていく」と話している。
新たに北米を見据えた海外展開
LINEは現在、コミュニケーションツールの分野で日本とタイ、台湾でトップのシェアを獲得しているほか、インドネシアやインド、メキシコなど合計13カ国で1000万以上のユーザーを獲得している。だがFacebook傘下の「WhatsApp Messanger」は約7億、中国テンセントの「WeChat」は約5億と、LINEより多くの月間アクティブユーザーを抱えており、その牙城を崩すのは難しい。
出澤氏は海外戦略に関して「ニューカマーの立場に変わりはないが、世界戦の切符を手に入れたチャレンジャーでもある」と話しており、海外でのシェア拡大に向けたチャレンジは継続していくとのこと。だがその戦略が従来より大きく変化しているわけではなく、クオリティの高いサービスを提供して利用者を増やし、一定数のユーザーを獲得した時点でローカライズ、カルチャライズを進めるという方針を、今後も継続していくようだ。
ローカライズを重視しているLINEには、日本にはないその国独自のサービスも存在している。その代表例が「同級生を探す」という機能。これはLINEに学校のデータベースを用意し、そこにユーザーが情報を登録しておくと、学校名や卒業の年度などをもとに同級生を探しやすくする仕組み。インドネシアでこの機能を搭載したところ、ユーザー数を大幅に増やしたきっかけになっているのだそうだ。
日本で展開しているサービスの中にも、海外の方がヒットしている事例があるという。例えば自撮りアプリの「B612」などは、海外中心に人気を獲得して2000万ダウンロードを記録しているとのこと。それを受けてか、3月にリリースをしたばかりの、自撮り写真をスタンプにできるアプリ「ycon」も、海外主体でアピールしているようだ。
最近では、ユーザーがオリジナルスタンプを販売できる「LINE Creators Market」が、海外でのユーザー拡大に貢献しているとのこと。現地のユーザーが自主的にスタンプを作成することで、その国ならではの文化や文脈を取り入れたスタンプが多く登場し、それがLINEの支持につながるという事象が生まれているのだという。
LINEが注力している地域に関しても、やや変化が見られる。特に大きな変化を感じさせるのは、従来力を入れてきたアジアや南米に加え、北米市場の開拓にも力を入れるようになったこと。その背景には、2500万のユーザー登録を獲得するなどユーザー数を拡大していることが背景にある。もっとも「アクティブ率でいうとまだまだだし、競合も多い」と出澤氏が話すように、市場開拓は容易ではない。どのような施策で開拓を進めていくのか、注目されるところだ。
ちなみに、既にトップシェアを獲得している台湾とタイに関しては、日本と同様プラットフォーム化を進展させるべく、サービスの充実を進めているとのこと。タイでは動画配信サービスの「LINE TV」を提供するなど、現地独自のサービス提供も進められているようだ。今後も日本で展開しているサービスをベースに、相性のいいものを、現地の動向を見ながら展開していきたいと、出澤氏は話している。
ゲームやコマースの新戦略、「LINEミュージック」は?
ここ最近、LINE力を入れてきたプラットフォーム事業について、出澤氏はどのような戦略や取り組みを考えているのだろうか。
LINEのプラットフォーム事業で最も人気を獲得しているのはエンタテインメントの分野であり、中でも大きな収益を上げているのはゲームである。同社のゲーム事業は「LINE:ディズニー ツムツム」などカジュアルゲームを主体に、多くのゲームが売上ランキング上位に名を連ねるなど好調を維持している。
しかし出澤氏によると、「最近ではカジュアルだけでなく、ミッド・コア向けのゲームも受け入れられるようになってきた」とのこと。タワーディフェンスゲームの「LINE レンジャー」がヒットして以降、そうした傾向は高まりつつあるようで、LINEもファンドを設立してゲーム関連企業に出資を進めるなど、カジュアル以外のゲーム開拓に向け積極的な取り組みを見せている。
だが筆者からすると、LINEのユーザー層とミドル・コア向けのゲーム内容がどこまでマッチするかというのは、まだ見通しがつかないというのが正直なところだ。そうした疑問について出澤氏は、「カジュアルゲームも成功まで試行錯誤があった。ヒットは一定の確率で出るものだが、LINEのプラットフォームは強力であり、その確率を上げていけるのではないか」と答えている。
ちなみに「LINE マンガ」など、ゲーム以外のエンタテインメントコンテンツに関しても、おおむね好調に推移しているとのこと。だが2014年再スタートを発表した「LINE ミュージック」に関しては、「現在準備中」とのことで、具体的なサービス内容や提供時期については語られなかった。
プラットフォームに関する動きでもう1つ、注目されるのがコマースの分野だ。LINEは2014年、「LINE MALL」の本格展開を発表。友達同士のグループ購入や、複数人でギフトを贈ることができるなど、LINEを生かした仕組みを提供するとして大きな注目を集めた。だが現状、ゲームなどと比べるとまだ大きな存在感を発揮しているとはいえない。
出澤氏は「LINE MALLのサービス自体は伸びている」としているが、一方で「コマースは強化ポイントの1つ。爆発的な成長に向け、大きな仕込みを入れている」とも話している。さらなる成長に向けた次の一手が期待されるところだ。
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