「悪ではないが、検討すべき課題がある」――IIJのゼロ・レーティングに対する考え:IIJmio meeting 13(2/3 ページ)
特定のアプリやサービスを使ったときのデータ通信量をカウントしない「ゼロ・レーティング」を採用するMVNOが増えているが、「通信の秘密」や「ネットワーク中立性」で議論の余地が残っている。IIJの考えは?
ネットワーク中立性の問題
「ネットワーク中立性」とは、通信事業者はインターネットにおける全てのデータを公平に取り扱うべきだという考え方のこと。Wikipediaによると、2000年代初頭にコロンビア・ロースクールのティム・ウー教授が提唱したとされ、「インターネットは全てのコンテンツやアプリケーション利用者に対してオープンであるべき」という内容の記述もある。オープンであるということは、データの種類やデータを扱う人によって、通信を認めなかったり、通信速度を変えたりしないということだ。インターネットがオープンであることによって、さまざまな革新的なサービスや技術、考え方が生まれることを期待する考え方である。
総務省の有識者会議でもネットワーク中立性に基づく議論が行われ、日本の電気通信事業にも、この考え方は尊重されていると佐々木氏はいう。ただ、インターネットは中立でなければならないという法律は日本にはない。ネットワーク中立性は、守るべき1つの指針、考え方といえる。
電気通信事業法第6条に「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取り扱いをしてはいけない」というものがあり、これがネットワーク中立性の考えに最も近い内容だ。とはいっても「不当でなければ差別的な取り扱いをしてもいいというようにも判断でき、オープンなインターネットであるべきだということまでは示していない」(佐々木氏)。
ゼロ・レーティングとネットワーク中立性の関係を考えてみよう。電気通信事業者がゼロ・レーティングで一部のサービス提供事業者を優遇することは、ネットワーク中立性の考え方からみると問題がある。電気通信事業者が優遇した特定アプリは市場支配力を当然強め、優遇されなかったアプリ提供者は市場支配力を弱める可能性がある。新規参入の機会が奪われ、その結果インターネットの革新が止まるかもしれない。通信事業者がサービス提供事業者にプレッシャーをかけ、サービス品質が悪くなる場合もある。革新が止まることで利用者の不利益につながることもあると佐々木氏は警鐘を鳴らす。
ただ、ネットワーク中立性は1つの考え方にすぎないので、議論の余地もある。米国には、過剰なネットワーク中立性の重視が、むしろ革新を止めるのではないかという考えを持つ有識者もいるという。ゼロ・レーティングのようなサービスを封じ込めることによって、新しいサービスの芽がつまれてしまう方が弊害が大きいと考える人もいるという。こういった議論が日本では十分行われていないと佐々木氏は指摘する。ネットワーク中立性に対しては、電気通信事業者や総務省、メディア、ユーザーも含めて、正しいインターネットとアプリの付き合い方を議論すべきだという考えだ。
利用者間の公平性が阻害される場合もある
さらに、ゼロ・レーティングがユーザー間の公平性を阻害する恐れもあるという。
データ通信サービスの提供にはコストが掛かる。電気通信事業者は、そのコストをユーザーに料金として負担してもらってサービスを運営している。もしゼロ・レーティングでユーザーがコスト負担を止めてしまったら、その無料となったパケット通信のコストは誰が負担するのだろうか。
ここで3つのケースが考えられる。1つ目のケースは、無料化対象のサービスを、その電気通信事業者が自ら提供する場合だ。例えば、ある携帯電話会社が、自身のユーザーに対して自社の雑誌読み放題サービスにかかるパケットを0円にする、というような場合だ。このケースは利用者間の公平性にはあまり関係がない。どちらかいうと、ネットワーク中立性の面で問題となるだろう。
2つ目のケースは、無料化対象サービスの提供事業者が、通信事業者に対してコストを支払う場合だ。例えば、MVNOが、あるサービス提供事業者の雑誌読み放題サービスでかかるパケット料金を0円とし、そのサービス提供事業者がMVNOに対してコストを払うとする。この場合、お金の流れはスライド下部の図のようになる。本来、サービスが提供されたら通信料金はMVNOに対して利用者が支払うが、そのお金がサービス提供事業者を回って流れただけで、ゼロ・レーティングにかかる通信コストは、回り回って利用者が負担していることになる。なので利用者間の公平性は保たれていると考えられる。
3つ目のケースは、無料化対象サービスのコストを誰も負担しない場合。MVNOがあるサービス提供事業者の提供する雑誌読み放題サービスのパケットを0円としたのに、誰もMVNOにお金を払わないという場合で、これは問題だ。図のように、通信コストは発生しているのにMVNOにお金が支払われない。しかし、通信コストは誰かが負担しなくてはならないので、下の「他の利用者」から払われた通信料金で補っていると考えられる。これではサービスを使っている利用者と、使っていないのにコストを負担している他の利用者は公平ではない。「ゼロ・レーティングが得だと思っている人と同じだけ、実際は裏でゼロ・レーティングで損をしている利用者がいる」(佐々木氏)
以上のケースを考えると、MVNOがゼロ・レーティングを提供しようという場合は、公平性の部分からよく検討する必要がある。電気通信事業法第6条は「緩い法律」で、「不公平が仮にあったとしても、法律で禁止されるほど不公平かといわれれば、たぶんそうではない」(佐々木氏)。結局、電気通信事業者とユーザーの判断になる。「どこに重きを置いてサービスを提供するか、契約するかという問題になる。実際のところ、電気通信事業者がこの問題をどう考えるかによって、対応はさまざま」(佐々木氏)という結論になる。
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