業界に衝撃を与えた「LINEモバイル」の向かう道――嘉戸社長に聞く:MVNOに聞く(1/3 ページ)
3月に発表されたLINEのMVNO参入のニュースから約5カ月半、ついにLINEモバイルのサービスがスタートした。9月の2万台限定のスタートから、どのような反響があったのか? 本サービスにどのように生かしていくのか? LINEモバイルの嘉戸彩乃社長に聞いた。
3月に発表されたLINEのMVNO参入のニュースは、サプライズとして受け入れられた。そこから約5カ月半、ついにLINEモバイルのサービスがスタートした。とはいえ、9月の開始当初はまだ“ソフトローンチ”の段階で、2万契約に絞ってサービスを提供。ここでLINE側の立てた仮説を検証し、ユーザーの利用動向を見極めたうえで、10月に本サービスを開始する予定だった。その本サービスは、予定を前倒しして9月21日に開始した。
既に多くの記事が世に出ているため、ITmediaの読者にあらためて説明する必要はないかもしれないが、LINEモバイルの売りは、カウントフリーや、LINEとの連携にある。カウントフリーとは、特定の通信を通信量のカウントから除外する仕組みのこと。1GBプランは「LINEフリー」としてLINEが、3GB以上のプランは「コミュニケーションフリー」としてLINEに加え、TwitterやFacebookが無料で通信できるようになる。料金は1GB、500円からだ。
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このカウントフリー開始にあたり、LINEは通信の秘密を侵害しないよう、利用者から明確な同意を取るフローを作った。説明会でも仕組みを説明し、MVNO事業を支援するMVNEをあえて公開するなど、丁寧に事業を組み立てている印象を全面に打ち出した格好だ。カウントフリーに類する機能を提供するMVNOの多くが、こうした点をおざなりにしてサービスインする中、LINEモバイルは“きちんとしている”と評価を高めることにも成功した印象を受ける。
では、ソフトローンチとしてサービスを開始した後、どのような反響があったのか。また、それらはどう本サービスに生かされていくのか。LINEモバイル嘉戸彩乃社長に、その詳細を聞いた。
子どもや60歳以上の利用者が多い
――(聞き手、石野純也) LINEモバイルの発表会を見て、一言で言うと“ちゃんとしている”という印象を持ちました。
嘉戸氏 私たちは持続可能性が一番重要だと考えています。そこを無視しても、長続きしないですからね。
―― ソフトローンチをしてみて、結果はいかがでしたでしょうか。狙い通り、もしくは狙いと違ったなど、何かあれば教えてください。
嘉戸氏 プランの割合などは想定通りでしたが、想定外だったのが、すごく問い合わせが多かったこと。お子様用に買われたものの設定が分からず、お問合せいただくことが多く、サポートセンターにつながらない。今まで利用されていた方と、リテラシーが違うということを実感しました。
契約者と利用者情報を分けていますが、40代の男性が契約して使われるのがお子様だったり、60歳以上の方も思った以上に多いですね。女性でいうと、20代、30代が多くいて、これまでのMVNOとは違うのかもしれません。女性に関しては、大手キャリア(MNO)を契約されているのとほぼ同じ割合になっています。MVNOによっては9対1、8対2という感じになりますが、6対4ぐらいのような割合で、それなりに女性がいます。
―― それは、狙った層にきちんと認知されたということでしょうか。
嘉戸氏 そうですね。(特に1GBのLINEフリーは)お子様用というところもあったので、サービス設計がうまくはまったのだと思います。
―― そうなると、トラフィックの傾向も、他のMVNOと変わってくるのかもしれませんね。
嘉戸氏 主戦場というか、興味を持たれる方の中心は他の事業者と変わらないところもありますが、マックスのところ(トラフィックのピーク)が、他の事業者よりはなだらかになるかもしれません。
おっしゃるように、マックス値を分散させるには、ユーザーの属性が分散されている必要があります。プランはオールリーチで利用シーン別に用意させていただきましたが、1人のヘビーユーザーがみんなに迷惑を掛けるということはないと思います。
―― 限定の2万契約が、まだ申し込めますが、このペースは想定していた通りでしょうか。
嘉戸氏 あくまで想定内ですが、(Webでの申し込みという意味では)これまでのMVNOで、たぶんナンバー1になるぐらいの多さです。来週(インタビューは9月13日に行われた)ぐらいには、いいお知らせができるのではないでしょうか。
―― 確かにWebだけで1カ月もなく2万契約は、限定とうたう必要がないぐらい多いですね(笑)。
嘉戸氏 多いところでも初月で5000、1000もあれば御の字ではないでしょうか。もちろん、このまままったく同じペースでいくのはすごく難しいことだと思ってはいますが、ちょっとずつ積み上げていけるとも思います。
1万円台の「ZTE Blade E01」が想定以上に売れた
―― 端末もセットで売られていますが、SIMカードのみとの比率はいかがでしょうか。
嘉戸氏 他社のWeb販売とほぼ同じぐらいだと思いますが、7:3、6:4ぐらいでSIMのみが多いですね。端末をバンドルされているところだとセットが8割ぐらいのところもありますが、そこまではいっていません。
ただ、売れる端末が想定とはちょっと違いました。1万円台のもの(ZTEのBlade E01)が想定以上で、在庫が切れてしまいそうです。タブレット(ASUSのZenPad 7.0)も多かったですね。お子さんに持たせると考えると、7型タブは500円のプランと相性がよかったのかもしれません。こちらが思っていたより、多かったです。タブレットは直前で入れてみたらと言われたので、入れてみたのですが(笑)。
―― ラインアップを見渡すと、比較的主要なSIMフリースマホメーカーが集まった印象があります。どのようなスタンスで、このようなラインアップになったのでしょうか。
嘉戸氏 何が売れるのかは分からなかったので、幅広く集めました。ただ、今回見ているだけでも、これが売れるんだというのは分かってきたので、端末のサイクルは速くしようと思っています。ダメだったらすぐに違うものを用意して、新鮮味は出していきたいですね。
―― LINE専用端末を期待していた人もありましたが、個人的には、それはやらなくて正解だったのではと思います。
嘉戸氏 よく聞かれますが、「それ、本当にいるの?」といつも思います。本当はメディアの方が写真を撮りたいだけなんじゃないですか(笑)。そこにお客さんがいるのかというのは、ありますね。今のスマホでLINE専用にするのは、何か意味があるのかなと思っています。
ただ、もし作るとしたら、全然違うものにしたいですね。例えば子ども専用にしてしまって、深センに行って本当に安く作って、スタンプしか打てないものとか。
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