曲がり角を迎える“キャリアの戦略” KDDIとソフトバンクの決算を読み解く:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
2016年度は増収増益と好調のKDDIとソフトバンク。一方で2社とも、1人辺りからの収益であるARPUを上げる戦略が、曲がり角を迎えていることがうかがえる。今後はどんな戦略で収益を上げていくのだろうか。
「5G」でのネットワーク競争に備えるソフトバンク、KDDIも設備投資を継続
さらに、2020年には「5G」が商用化され、競争軸がもう一段変化する可能性もある。ソフトバンクは、ここに向けた戦略も披露した。同社と傘下の米Sprintは、決算説明会に合わせ、Qualcommとの発表を行った。合意内容は、2.5GHz帯(Band 41)を活用した5Gの技術開発について。「個別の設計のところは、まさに今日からがキックオフになる」(孫氏)ため、明かされなかったが、モデムの共同開発を行っていくのかという質問については、「なかなかいいところをついている」(同)と答えた。
2.5GHz帯では、ソフトバンクとSprintの双方が、TD-LTE(AXGP)を運用している。LTEの中では高い周波数帯だが、Sprintは、電波の出力を上げ、このエリアを広げるHPUE(ハイ・パワー・ユーザー・エクイップメント)を導入した。HPUEは、2016年のMobile World Congressで、孫氏がTD-LTEの業界団体であるGTIに提案した規格。これが採用され、Sprintに導入したところ、1.9GHz帯と99%同じエリアをカバーできたという。
さらに、Sprintは「Magic Box」や「Femto」など、さまざまな小型基地局を導入。孫氏が「これは5Gのネットワークの前哨戦だ」と語っていたように、現状のネットワークを改善するだけでなく、5Gに向けた先行投資という意味合いもある。Qualcommとの合意は、ここにつながってくるというわけだ。
同じ2.5GHz帯を運用しているだけに、ソフトバンクへのシナジー効果も期待できるかもしれない。もともと孫氏は、Sprintの経営再建のために、「ある意味、ソフトバンクが日本で培ったノウハウを全部導入した」(同)。一方で、HPUEなどは、ソフトバンクではなくSprintが先行導入している。「Sprintが今抱えている問題を解決するために、新たな道具で世界に先駆けた開発を行っている」(同)からだ。今では、「Sprintとソフトバンクはお互いに技術で刺激し合う」関係になっているというのが、孫氏の見方だ。
ネットワークや5Gについては多くを語らなかったKDDIだが、設備投資については、2017年度に5300億円を予定している。2016年度から100億円程度増やし、「700MHz帯、3.5GHz帯の4G投資に使う」(田中氏)方針だ。5Gのトライアルも徐々に進めており、2020年に向け、徐々にネットワークを進化させていく。前回の連載で取り上げたように、ドコモも5月に5Gのトライアルサイトを開始し、複数企業と実験を行う予定。5Gをベースにした「beyond宣言」も打ち出しており、3年後に向け、ネットワーク競争も徐々に過熱していくことになりそうだ。
関連キーワード
KDDI | ソフトバンク | UQ mobile | MVNO | Sprint | ARPU | 石野純也のMobile Eye | 孫正義 | 田中孝司 | J:COM MOBILE | SoftBank Air
関連記事
新プランで約300億円を還元 6つの領域に注力するドコモの勝算は?
ドコモが「beyond宣言」と題する新たな中期経営戦略を発表。5Gを軸に、6つの領域に注力していくことを宣言した格好だ。このbeyond宣言の目的はどこにあるのだろうか。MVNOが「モバイルID数」をけん引/テザリングオプションは無料に?――KDDI決算
auとKDDIグループMVNOの契約数を含む「モバイルID数」は、MVNOがけん引しており、UQ mobileを中心にMVNO事業も強化する。田中社長は、大容量プラン向けのテザリングオプションの料金についても言及した。孫社長が語る米国戦略 2019年に2.5GHz帯の5Gサービス開始、T-Mobileの買収意欲が再燃
ソフトバンクグループ、Sprint、Qualcommの3社が、2.5GHz帯を使った5G技術を共同で開発する。2019年後半に、5Gに対応した商用サービスと端末を米国で提供する予定。孫社長は「最も先進的なネットワークを、誰よりも早く大規模で作る」と自信を見せる。MVNOを含めた戦いはドコモの独り勝ち――3キャリアの決算を読み解く
大手3キャリアの第3四半期決算は、増収増益と好調だ。一方で格安スマホへの流出は続いており、解約率の低下が大きなテーマとなっている。今回の決算はから読み取れることは?火花散らすY!mobileとUQ mobile――それでもドコモがサブブランドを展開しない理由
Y!mobileとUQ mobileが激しい戦いを繰り広げている。競争の主戦場はサブブランドやMVNOに移りつつあるが、ドコモはどう出る?
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.