なぜいま日本で「QRコード決済」が注目を集めているのか?:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(3/3 ページ)
LINEや楽天に加え、ドコモも参入することが決まった「QRコード決済」。国内3大メガバンクがQRコード決済で規格を統一するという報道もある。なぜ今、QRコード決済が注目を集めているのか。
使える店舗が増えても、実際に使ってもらえるかは別問題
中国系のAlipay、WeChat Payを筆頭に、LINE Pay、楽天ペイ、d払い、Origamiといったサービスが登場した日本でのQRコード決済の市場。冒頭の3メガバンクの合意の話題にもあるように、今後もまだ何社かがサービス提供に名乗りを上げてくるはずだ。
同時に、同じ仕組みに相乗りしてくる形となるため、(途中での方針転換がなければ)利用可能な店舗も最終的にある程度は同じ水準まで横並びになると予想する。一方で、それらが全て同程度に利用されるかといえばそうではなく、最終的にメインとなるサービスは1~2社程度に収束するだろう。ポイント倍増などキャンペーンが盛んな初期段階では各社の拮抗(きっこう)が目立つが、やがて普段使うサービスは各ユーザーあたり1~2社程度に減ってくる可能性が高いからだ。
その意味では、冒頭の3メガバンクがどのような手を打ち出してくるのかは非常に興味深い。後発がゆえに展開の不利さをカバーするために3社でインフラ共通化を図っているのだと予想されるが、他社に比べた優位点はどこにあるのだろうか。
1つは、人口カバー率にある。例えば、最大手の三菱東京UFJ銀行(BTMU)だけで4000万口座を抱えている。三井住友とみずほがその6~7割程度だ。重複分はあるにせよ、3社の抱える潜在ユーザー数だけでおそらく楽天IDと同等か、それ以上の規模を持っている。もし、モバイル向けサービスの利用ハードルを大幅に下げることに成功したならば、銀行口座直結の利便性の高いサービスで一気に大手となるだろう。
一方で、潜在規模以外の優位性があまりみられず、成功できるかは潜在需要の掘り起こしにかかっている。超低金利が長年にわたって続くなか、今後日本の銀行が生き残るうえで新しいビジネスモデルを構築せざるを得ず、「日々の物販で利ざやを稼ぐ」という、これまで銀行があまり介在してこなかった仕組みは、新たな収益源となる可能性がある。
また、1つの店舗で2つのQRコード決済が同居できないケースが日本には存在する。意外に思われるかもしれないが、それは「Alipay」と「WeChat Pay」だ。中国でも「どちらか一方だけ」というケースはあるが、基本的にはどちらもワンセットで店頭にサービスロゴが掲出されている。例えば、AirレジやローソンではAlipayを導入しているが、ビックカメラはWeChat Payといった具合に、両方に対応している店舗は基本的に存在しない。
その理由は両者が排他関係にあり、加盟店契約時のルールとなっているためだ。ゆえに仕組み的には同居が簡単にもかかわらず、「どちらか一方を選ばなければいけない」状態にある。だが(オンラインのカード決済サービス)Stripeのように海外由来のサービスではAlipayとWeChat Payへの同時対応が可能など、こうした排他ルールは存在しないようだ。
「なぜ日本だけこうなった」という声はあちこちから聞こえてくるが、二者択一は各社にとっての悩みの種ではあるようだ。「WeChat Payは少額決済、Alipayはもう少し大きな買い物」という区分けが一般にあるとは聞くが、「ユーザーシェアはWeChat Payの方が大きいのでウチはこっちに決めた」(ビジコム)というベンダーもいる。また上海を拠点とする人々に話を聞いたところ「明確な使い分けはなく、その日の気分や、そのときに開いていたアプリで判断する(例えばチャットした直後の決済はWeChat Pay)」といった具合だ。
AlipayとWeChat Payについては、インバウンド対応だけではなく、日本市場でユーザーを開拓するというウワサも聞く。だが日本国内でこのように排他契約が存在する以上、利用できる店舗は自ずと二分されるわけで、その点で不利だ。また中国でのケースと異なり、Alipayのベースとなっている「Taobao(淘宝網)」やWeChat Payの「WeChat」といったサービスは日本で利用されておらず、ユーザーを拡大する余地がほとんど存在していない。ゆえに、両者ともに日本での普及は当面はインバウンド需要にとどまるというのが筆者の考えだ。
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