「分離プラン」への期待と不安要素:モバイルフォーラム2019(3/3 ページ)
MVNO委員会は、3月8日、「モバイルフォーラム2019 ~2030年を見据えた新たな競争ルールとMVNOの果たすべき役割~」を開催。総務省の担当者や「モバイル研究会」の有識者、ジャーナリストが講演し、分離プラン導入についてそれぞれの意見を述べた。
接続料によらない仕組み作りも検討すべき
3つ目の不安は「中古スマホ」だ。石川氏は自分でも中古ショップに自分の端末を買い取ってもらうことがあるとしたものの、「国を挙げて盛り上げるのが本当にいいことなのか」と疑問を呈した。石川氏は「スマホは消耗品」と考える。スマホは2~3年も使えばバッテリーの持ちが悪くなり、最新OSへのアップデートも、特にAndroid端末は難しくなる。バッテリーを取り換えられずセキュリティ面でも不安な中古スマホを盛り上げるのは「おかしい」と石川氏は語った。
また、そもそも分離プランが導入されると、ユーザーは新品を買わずにずっと同じ端末を使い続け、結果として中古スマホ市場に端末が流れなくなるという根本的な問題も指摘。
これとは別の問題として、Appleが日本のキャリアに対し、下取りしたiPhoneを国内流通させないために海外に転売させているのではないかという議論もある。石川氏が取材したところ、Appleが指示しているかどうかは「正直よく分からなかった」という。
ただ、中古のiPhoneを海外に転売し、海外の工場で分解し、新しいバッテリーに取り換え、それを組み立て直してリファービッシュ品として世界で売っていくという巨大なエコシステムができており、日本には大量の中古iPhoneを買い取ってくれる業者が少ないという。
だからキャリアが下取りしたiPhoneはどうしても海外に流れる。日本で流通させようとするなら、海外の事業者が買い取る価格よりも高く、大量に買う必要があり、そのためには日本の中古業者の購買力を上げる必要があると石川氏は指摘した。
4つ目は接続料の問題だ。石川氏は「接続料によってMVNOの料金プランは横並びの傾向があり、接続料という仕組みがあるから昼間に混雑するという問題がある」と考える。MVNOの関係者からも「昼間の快適性を上げようとすると、接続料をたくさん払わなくていけないのでコスト的にも厳しい」という声も聞かれるという。
「キャリアが値下げすることで、当然、接続料の引き下げも検討しなくてはいけないが、総務省での議論で、誰もが納得できるすっきりした接続料の計算式を出すのは難しいと感じる。接続料によらない仕組み作りも検討すべきでは」と石川氏は提言した。
また、ドコモの吉澤社長に「卸契約」の可能性を尋ねたエピソードを紹介。吉澤社長の「歓迎するが、相当な回線数があれば対応する」という回答から、「回線数だけではない卸で契約できる仕組み作りを模索できればいい。総務省もそういう議論をしてほしい」と語った。
今後はIoT向け接続料も議論になる。IoTの世界では1契約から数十万契約までカバーしており、1回線いくらの接続料はあまり意味ない。MNOで提供しているIoT向けプランも安いので、「IoTビジネスに合ったMNOとMVNOの関係を築くような仕組みが必要」とも述べた。
最後の不安要素として石川氏が挙げたのが「ユーザーの気持ちを理解できているか」ということだ。過去に総務省主導で導入されたSIMロック解除は一般ユーザーにあまり浸透しでおらず、MVNOもSIMロック解除を期待するよりもマルチキャリア展開の方向に進んでいる。「MVNOにとってSIMロック解除はもう友好的に動いていない」(石川氏)という印象だ。
“1GBプラン”についても、「使い放題プランの方が支持されているように感じる。段階制でデータ量を気にしながら使うよりも、定額制の方が安心感があり分かりやすい」(石川氏)という意見だ。
さらに、当初MVNOは分離プランから始まったが、その状態で一般に広く浸透したとは言いがたく、端末とSIMカードがセットになった「格安スマホ」でシェアを伸ばした。今ではどこのMVNOも端末のセット販売が当たり前になっている。
「セット販売の方がユーザーには分かりやすいのではと感じる。一般の人が中古端末を買い、キャリアショップに行って契約をするのはハードルが高いと思う。日本人のリテラシーからすると、端末と通信料金は一緒なのが分かりやすく、安心できる人が大勢なのだと思う」(石川氏)
こうした疑問点を挙げながら石川氏は「これから法律もできると思うが、もしこれが間違ったと気がついたら修正していく勇気を持ってほしい」と締めくくった。
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