連載

MVNOと「+メッセージ」の関係 当初は3キャリア限定→MVNO開放の背景は?MVNOの深イイ話(2/2 ページ)

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社から提供されている+メッセージでは、SMSのように相手先の電話番号を指定してメッセージを送ることができます。2021年9月から、これまでは使えなかったMVNOにも開放されました。MVNOやサブブランドのユーザーも、無料で高度なメッセージングが可能となり、アプリの利便性がより高まることになります。

前のページへ |       

+メッセージがMVNOに提供されなかった理由は?

 そんな+メッセージにも落とし穴がありました。それがMVNOとその利用者です。2018年にサービスを開始した+メッセージはMVNOには提供されず、その利用者は+メッセージアプリを利用することはできませんでした。なぜこのようなことになったのでしょうか。

 SMSは、MVNOの利用者でも使うことが可能です。これは、SMSがMVNOに対し卸役務としてMNOから提供されているためです(「卸役務」については前々回の「MVNOの深イイ話」にて詳しく解説しています。よろしければご一読ください)。

 MVNOは、MNOからSMSが利用可能な回線の卸を受け、その回線を利用者に提供することで、利用者がSMSを利用できるようにしています。回線の基本料金やSMSの送信料金は、MVNOが利用者に請求すると同時に、MNOからMVNOへは卸料金として請求されます。これら2つの金額には若干ですが差分があり、その差分はMVNOにとっての収益となります。

advertisement

SMSは、MNOから卸役務で提供されることでMVNOでも利用できるようになっている

 しかし+メッセージは利用者へは無料での提供となりますから、そのままのビジネスモデルではMVNOは収益を上げることができません。これではMVNOにとっては卸役務での提供のモチベーションは上がらない、ということになります。

 それだけでなく、一部のMNOは+メッセージの卸を受けたいMVNOにコストの一部を負担してもらおうと考えていたようです。もちろんSMSでもそうであるように、MVNOがMNOの設備などにかかるコストを卸料金などとして一定程度負担することは、MVNOのビジネスモデルとしては普通のことです。しかし、利用者からの収益がない中で、コストの一部負担に応じてまで+メッセージ対応を進めようとしたMVNOが登場しなかったことは自明かもしれません。

 なお、現時点ではMNOですら+メッセージを収益化できているようには見えませんが、将来的にはスタンプの販売や、利用者と+メッセージを使ってつながりたい法人顧客からの収益などを期待しているようです。例えば将来のレベニューシェア(収益の分配)のような、MVNOでも応じやすい新たなビジネスモデルの提案がMNOからあったならば、また違った展開になった可能性はあります。

 いずれにしても、+メッセージはMVNOから提供されることはなく、その後MNO参入を機に独自のRCSを「Rakuten Link」(※5)として提供した楽天MNOからも提供されることはありませんでした。結果として、+メッセージが本来期待されていた「広範な相手先に高度なメッセージングを無料で送れる」メリットは薄れてしまい、そのために普及にもブレーキがかかってしまったように思います。

(※5)Rakuten Linkは+メッセージ同様、RCSを使っていますが、+メッセージでは対応していない音声通話にも対応しているなどの違いがあります。

キャリアの囲い込み脱却の流れが進む

 大きく+メッセージが動いたのは2021年9月2日です。+メッセージの利用が、MNOのみならずMVNOの利用者にも可能となるよう、各社が拡大を進めていくという3MNOの連名の報道発表がありました。対応時期は、KDDIが一番手となり即日、その後ドコモが11月、そしてソフトバンクは現時点では提供されておらず、2022年春予定、となっています(※6)。


2021年9月に、3キャリアが+メッセージをMVNOでも利用可能とすることを発表した(NTTドコモのニュースリリースより)

+メッセージの対応スケジュール(NTTドコモのニュースリリースより※ドコモは2021年11月24日に対応済み)

 これはSMSとは異なり、MNOとMVNO利用者の間での直接のサービス提供となります。MNOはMNO→MVNO→利用者という「卸役務」のビジネスモデルの模索をやめ、MNO→利用者、というダイレクトなサービス提供を選んだ、ということになります。

 これにより、MVNOは将来の「収益化」に参加することはなくなりましたが、同時に設備などのコストの負担をする理由もなくなります。+メッセージの利用者にとっては、これまで対象外だったMVNOの利用者や、同じくこれまでは対象外で、MVNOと同時にサポートが表明されたUQ mobileやLINEMOなどサブブランドや廉価プランの利用者との間でも、無料で高度なメッセージングが可能となり、アプリの利便性がより高まることになります。

(※6)なお、MVNO利用者の中でも、データ通信専用SIMをご利用のお客さまはご利用いただけません(アプリをインストール後の初期設定中にSMSによる回線の認証が行われます)。IIJmioのeSIMをご利用のお客さまについても+メッセージはご利用になれませんのでご注意ください。

 これまでも、MNOが提供する動画や雑誌、バイクシェアのような「コンテンツ」ビジネス、すなわち付加価値サービスの多くは、回線(SIM)の提供事業者とは無関係に、利用者がMNOと直接契約することができるようになってきています。

 しかし、キャリアメールや+メッセージのような通信サービスの提供は、コンテンツビジネスと違い、MNOはこれまでかたくなに回線契約のある利用者にのみ提供していたように感じます。+メッセージのMVNO利用者への開放は、2021年12月に3MNOから発表が相次いだキャリアメールの持ち運び(MNOを解約し他社にMNPした後も、キャリアメールの契約だけを移転前のMNOに残し、メールアドレスを使い続けられるサービス)とあわせ、MNOが回線契約を使った利用者の囲い込みから一層の脱却をしつつある現れ、なのかもしれません。

 さて、これで+メッセージの送受信ができないのは楽天MNOの利用者だけとなりましたが、Rakuten Linkと+メッセージが相互に乗り入れる日は来るのでしょうか?

著者プロフィール

佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長

 2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.