非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。現時点では第1回が開催されたところだが、少なくとも、ネットワークを運用するMNO(Mobile Network Operator)に関しては4社とも賛同の意向を示している。方式ごとに課題はあるものの、短期間でスタートするため、まず警察や消防などへの緊急呼のみを取り扱う方針も4社共通だ。
一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できず、誤解を恐れず言えば、いくぶん中途半端な対応になっている印象も受けた。検討会は初回が終了したばかりで方向性はこれから変わる可能性もあるが、現時点で提示された各社の案をもとに、今後の課題を整理していく。
ほぼ一致する4キャリアの見解、LBO方式でのローミングが有力か
KDDIの大規模通信障害を受け、急きょ開催が決まった事業間ローミングの検討会だが、水面下で議論を続けてきたこともあり、MNO4社の意見は大枠で一致している。一言でまとめると、緊急通報に限ったローミングには賛成というスタンスだ。その先には、端末側のデュアルSIM機能やモバイルネットワーク以外のWi-Fiなどを活用する案も検討あるが、早期導入に向け、まずは簡易的な手段を模索することで方向性は一致している。
技術的には、ローミングの仕方にも複数の種類があるが、各社が検討しているのが「LBO(Local Break Out)方式」と呼ばれるもの。現状、VoLTEの国際ローミングサービスで利用している「S8HR(S8 Home Routed)」は、処理の多くをユーザーが契約するホーム網側で行っている。これに対し、LBOは、どちらかといえば、ユーザーが接続した在圏網側の負荷が高くなる方式だ。
具体的には、S8HR方式の場合、端末が接続しているキャリアの「S-GW」を通ったあと、「S8」と呼ばれるリンクを通して、ホーム網側のパケット交換機である「P-GW」に接続する。以降の処理は主にホーム網で行うため、端末が接続するキャリア側は機能追加を最小限にできる特徴がある。イメージとしては、データ通信をそのままホーム網側に通すのに近い。S8HRは、世界の携帯電話事業者が加盟するGSMAで標準化された方式。日本のキャリアでは、ドコモが仕様策定や実証実験に携わっている。
ただ、ホーム網側が多くの処理を担うため、当のホーム網が通信障害や災害で不通になってしまった場合、ローミング自体が難しくなってしまう。これに対し、LBO方式はパケット交換機のP-GW以降の設備も、ユーザーが接続したキャリアのものを利用する。加入者情報を問い合わせるため、在圏網からホーム網のHSS(加入者データベース)への接続や、VoLTEの交換機であるIMSへの接続は必要になるが、S8HRと比べると、ホーム網側の負荷は軽いといえる。
MNO4社と、その4社が加盟する業界団体のTCAがLBOを推しているのは、そのためだ。緊急通報に限定すれば、トラフィックの負荷は軽くなるため、いざというときに備えて設備のキャパシティーを大幅に増やす必要もなくなる。端末の検証やネットワーク改修の費用といった課題は残るものの、現時点では最も実現しやすいローミング方式の1つといえる。各社がLBO方式を有力視しているのは、そのためだ。
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