衛星通信やHAPSは非常時の通信手段になり得るのか 検討会で挙がった課題
「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第4回)」では、ローミング以外で通信手段を確保する方法が議題に挙がった。4キャリアは、成層圏からエリア化を図るHAPSによる通信や衛星通信のサービスを推進している。検討会での焦点になっている緊急通報については、課題が残されている。
総務省が11月15日に開催した「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第4回)」では、ローミング以外で通信手段を確保する方法が議題に上がった。
4キャリアが開発を進めているのが、HAPS(航空機などを基地局のように運用して成層圏からエリア化を図る高高度プラットフォーム)や、静止衛星・低軌道衛星による通信だ。
NTTドコモは、NTT持ち株とスカパーJASTの合弁会社であるSpace Compassが、HAPSによる通信サービスの提供を目指している。KDDIは衛星通信の「Starlink」を活用し、2022年内にau基地局のバックホール回線として活用し、山間部や海上などの通信を想定して法人や自治体にも提供する予定。
ソフトバンクは、THURAYA(スラヤ)の衛星電話サービス、OneWebの低軌道衛星通信サービス、ソフトバンク子会社のHAPSモバイルのHAPSサービスを活用していく。楽天モバイルは、米AST SpaceMoibleとともに、衛星通信を活用した「スペースモバイル」を推進していく。
いずれも災害時や障害時の通信手段として使えることに加え、上空から日本全土をカバーすることで、従来の基地局ではカバーしきれなかった島しょ部や山間部を含めたエリアの拡張も期待される。HAPSでは「エンドユーザーは特別な機器を準備することなく、普段使いのスマホで接続可能」(ドコモ)。一方、衛星通信を利用するには本来、専用の機器やアンテナが必要になるが、「地上側で衛星通信に必要な補正を行うことによって、一般に普及している既存スマートフォンで通信が可能になる」(楽天モバイル)という。
一方で気になるのが、検討会の焦点になっている緊急通報について。事業者間ローミングでは、キャリアのコアネットワークに障害が起きていなければ緊急通報機関からの呼び返しは可能だが、衛星通信やHAPSで緊急通報を行う場合はどうか。この点については「実現に向けて検討中」(各社)という状況だ。現在の緊急通報では端末の位置を加入者データーベースに登録する必要があるが、衛星通信やHAPSでどのように位置情報を登録するかは、今後の課題といえる。
また、災害時に自社のネットワークが使えなくなり、衛星通信やHAPSのみを用いる際に、ユーザーのトラフィックを全てさばききれるようになるのかも課題になり得る。例えばテキストでの安否確認のみなら影響は少ないだろうが、ビデオ通話をしたり、大容量コンテンツを利用したりすると、どうなるか。ソフトバンクはHAPSについて「鋭意、容量を上げる努力をしているが、実現手段は発展途上。ビデオの大容量化などでHAPSをどこまで使えるかは今後の検討課題」とコメントした。
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