終わりの見えないドコモの通信品質改善 d払いアプリの活用で“パンドラの箱”を開く恐れも:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
ドコモは、2月2日に2023年から実施している通信品質の改善に関する進捗(しんちょく)状況を発表した。2000カ所の9割超の対策が完了し、平均スループットは向上したという。一方、2000カ所の対策を終えたとしても、本当にユーザーの不満が減少するかは未知数だ。
品質改善は本当に終わるのか、アプリでパンドラの箱を開く可能性も
一方で、2000カ所の対策を終えたとしても、本当にユーザーの不満が減少するかは未知数だ。実際、筆者も記者会見終了直後に、移動した地下のカフェでドコモ回線のパケ詰まりが発生した。スピードテストはできず、Xへの画像投稿も失敗。数日前にも、取材中に都内のビル内でドコモ回線のデータがほとんど流れない場面を目撃している。小林氏も、「都市部のビルは、オーナー(の意向)や設備も含めて、なかなか調整が難しい。建物の中は工事をするのが大変で、そういったところはご不便をおかけする箇所がある」と認める。
また、ドコモは基地局側でのトラフィック情報は確認しているが、アプリを使った場所の特定には着手したばかり。先に挙げたd払いの情報は有効活用できそうだが、「使い始めたのが1月中旬ぐらいからで、これを使って改善した実績はまだない」(ネットワーク本部 無線アクセスデザイン部長 林直樹氏)状況だ。現時点では細かな品質劣化を可視化できていないだけという見方もできる。実際にデータを分析したら、要改善のエリアがスポット的に多数発見される可能性はある。
改善例としてドコモが挙げたデータも、よくよく見ると大阪駅では4Gが5Mbps以上で、快適と言い切るには少々厳しい数値だ。名古屋駅も、5Gの30Mbpsに対し、4Gは10Mbpsにとどまっている。5Gに接続すれば不満なく利用できるようになるはずだが、ユーザーが必ずしも5G対応端末を持っているとは限らない。同社の2023年9月時点での5G契約数は、2245万。spモード契約者数の5258万の半数程度。残りのユーザーは、5Gの増設による品質向上を体感できていない恐れもある。
SNSに上がる不満の声が減少したというのも、単に対策が効果を発揮したからとは限らない。ドコモ回線に耐えられず、他社に移ったり、他社回線をデュアルSIMで併用したりすれば、その分は不満としてカウントされなくなる。人口密集地域を対策すれば、まとまった数の投稿は減らせそうだが、逆に不満が偏在している可能性も捨てきれない。また、パケ詰まりに慣れて諦めの境地に達すれば、あえて不満の声は上げなくなる。人は、ドコモ回線の品質だけを気にして生きているわけではないからだ。
契約者数が第2四半期(2023年6月から9月)で純減に転じたわけではなく、依然として純増傾向は維持しているため、ユーザーがドコモから離れて不満の声が少なくなったというわけではなさそうだが、現状の通信品質に対して満足しているかどうかは、アンケートを取るなどして、今より精緻に分析した方がいいだろう。ドコモは2000カ所の対策完了後も「コロナのような大きな変化があっても耐えられる、厚みのあるネットワークを作っていきたい」(小林氏)としているが、その対応も注視していきたい。
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