ソフトバンク、モバイル事業は前倒しで黒字化 宮川社長は“楽天モバイルの支援”にも言及(2/2 ページ)
ソフトバンクは2月7日、2024年3月期第3四半期決算を発表した。国の要請による「携帯4割値下げ」以降、赤字続きだったモバイルの売上高がこの第3四半期に反転して増収に。質疑応答では、プラチナバンドを獲得した楽天モバイルを支援する意向を宮川社長が示した。
CEO直轄事業が進展 「新しいことでも挑戦できる体制が整ってきた」
ソフトバンクには「CEO直轄プロジェクト」があり、「スピード感ある意志決定、全く新しいことでも挑戦できる体制が整ってきた」と宮川社長は言う。同社は分散型AIデータセンターを全国に展開する計画だが、それを実現するネットワークにおいて新技術を活用して展開を完了した。
これは「光電子結合ネットワーク」と呼ばれる技術で、NTTのIOWNにおける「光電融合」と同じような技術だと宮川社長。これによって基幹ネットワークにおいて省電力・低遅延・大容量が実現できた、という。
生成AIの分野では、2023年に構築した国産大規模言語モデル(LLM)の計算基盤は順調に稼働しており、12月に1300億パラメーターに到達。当面の目標である3900億パラメーターに向けて開発を継続する。同時にマルチモーダル化も進めて、図表、画像、符号、コーディングにも対応させていき、2024年度中に3900億に到達する見込みだ。
最終的には1兆パラメーター超えを目指し、「日本の文化や習慣を理解した生成AIを目指すが、精度が高くて応答が早くて消費電力が少ない、研ぎ澄まされた生成AIにする」(同)ことを狙う。
「Beyond Japan」では、2023年12月に出資をしたアイルランドのCubic Telecomを紹介した。コネクテッドカー向けのグローバルIoTプラットフォームを提供する同社に対して約750億円を出資し、株式の51%を取得して子会社化を図る。同社は、自動車メーカーに対して世界各国で一元関知ができるIoTプラットフォームを提供。どの国に出荷しても、同じ環境でコネクテッドカーを管理できる。
今後、世界中で道路や信号機、車、歩行者などが連携する次世代交通インフラが成立するため、こうしたプラットフォームはさらに重要になり、プラットフォーマーとして事業展開が可能になるとみて宮川社長は期待する。同様にコネクテッドカー向けIoTサービスを提供するKDDIに対して、「構造が違う」と宮川社長。同一プラットフォームで世界中における展開が可能な点をアピールし、「あんまり(KDDIのサービスに対して)過激なことを言うと怒られるのでやめておくが、十分(KDDIに対しても)戦えると思っている」と自信を見せる。
ローソンとKDDIの資本業務提携は「なかなか思い切った判断をした」
質疑応答では、ローソンとKDDIの資本業務提携に問われて、「なかなか思い切った判断をしたなと驚いている。ただ、僕がやりたいものと思いが違うと感じている。僕らが求めている経済圏はもう少しオープンな形」とコメント。特定の小売り事業者のDXを目指すのではなく、「日本全体の小売りDXを目指すのが方向性」として、戦略の違いを強調した。
成層圏を飛行する基地局HAPSに力を入れていた宮川社長だが、能登半島地震における衛星通信の可能性を見たことで「心境の変化は大あり」と言う。Starlinkのような低軌道衛星とスマートフォンの直接通信は、KDDIがまずSMSから対応する計画だが、宮川社長も「可能性は深く追求しており、物理的な衛星を持っている会社とはあらゆる確度で議論を重ねている」と話す。低軌道衛星とHAPSも用途は異なるので、並行して今後も検討、開発をしていく考えを示した。
なお、能登半島地震の現状については、「まだ現場に到達できていない地域があり、完全復旧に至っていない」として謝罪した。停止した基地局は当初271局で、東日本大震災の3700局以上という数字に対しては少ないが、「それとはまったく違った復旧の難しさがあった」そうだ。
東日本大震災は周辺地域から復旧人員が入りやすく、資材の搬入もしやすかったというが、能登半島は交通網が断裂したことで「本当に海からもなかなか入れず、陸からも物資が輸送できず、エリアの(広さの)割に相当手こずっているのは事実」と吐露する。
他にも、例えば電力がない場合は発電機で基地局を稼働させるが、道路が破損していることから大型機材が持ち込めず、小型の発電機を持ち込まなければならなかったという。バックホール回線の仮復旧で衛星を使う場合、積雪を取り除く必要もあるというのも苦労だという。現時点で震災影響は20億円前後を見込むが、既に通期予想に織り込み済みだとしている。
ドコモは2月5日にネットワーク品質改善の説明会を開催し、そこでソフトバンクが関西圏でアピールするネットワーク品質について広告手法などに疑問を呈していた。これに関しては、「OpenSignalとかAgoopのデータを見ながら、(通信品質が良かったために)現場が調子こいたんでしょうね」とコメント。「われわれだけがつながりやすいわけではなく、どこでつながる、つながらないとしのぎ合ってきた」とフォローしつつ、「よく確認しておく」との判断を示した。
宮川社長は前回の第2四半期決算説明会で、楽天モバイルの支援についてコメントしたが、「いらんことをちょろっと言っちゃった」と苦笑。何らかの進展があったわけではないが、楽天モバイルが獲得した700MHz帯の新周波数帯は「貴重なプラチナバンド」であり、しっかりと整備して電波の有効活用することが「MNOの仕事であり責務。しっかりと果たしてほしい」と強調した。
特に10年間で1万局・500億円という設備投資に対して、「1万と言わず、7万、8万と全国で自前の設備を作ってほしい」と注文を付け、それに対して手間がかかわる伝送路、基地局のエリア、電源周りの工事などで協力すると話した。
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