海外eSIMの「トリファ」が急成長を遂げたワケ 体験に基づくサービス設計、海外キャリアと直接連携も強みに(1/4 ページ)
レンタルWi-Fiに代わる海外での通信手段として、eSIMを提供する事業者が増えている。国内ではトリファが急成長しており、7月にはテレビCMも開始した。ライバルも多い中、どのような戦略でeSIMサービスを提供していくのか、代表取締役の嘉名雅俊氏に話を聞いた。
海外渡航時の通信手段はさまざまだが、利用の手軽さなどから、Wi-Fiルーターをレンタルする人が多い。海外ローミングを提供する大手キャリアも、対抗軸としてレンタルルーターを意識しており、料金やそのまま普段のスマホで通信できる手軽さを打ち出している。一方で、もう1つの選択肢として伸びているのが海外eSIMだ。時間や場所を問わず、端末内にICチップにプロファイルを書き込めるというeSIMの特徴が海外渡航とマッチしていることもあり、海外ではこうした事業者が急増している。
一部の海外eSIM事業者は、アプリの日本語化を行ったり、決済を日本円で行えるようにしたりして、日本のユーザーを取り込もうとしている。このような状況の中、国内でもスタートアップが海外eSIMを手掛け、売り上げを急速に伸ばしている。国内の「利用者数No.1」をうたうトリファだ。同社は、コロナ禍真っただ中の2020年に創業したスタートアップ。海外渡航が激減した時期に設立され、当初は利用も低調だったが、コロナ明けの海外渡航解禁ともに存在感を高めている。
7月には上白石萌音さんを起用したテレビCMも開始しており、海外eSIM事業者としての知名度も高まっている。一方で、海外eSIMには、海外事業者のライバルが多い。最近では、大手キャリアも最上位の料金プランで海外ローミングを無料化しており、追加料金がかかる海外eSIMの競合になりうる。急成長中のトリファは、こうした変化を迎える中、どのような一手を打っていくのか。同社の創業者で代表取締役を務める嘉名雅俊氏に話を聞いた。
レンタルWi-Fiに代わるサービスを目指すも、当初はキャリアからほぼ相手にしてもらえず
―― 最初に、トリファを立ち上げて海外eSIMサービスを始めようと思った経緯を教えてください。
嘉名氏 2020年に創業しましたが、その時点で、今のトリファのサービスにすぐに取り掛かったわけではありません。私は、もともとスタートアップをやりたくて起業したのですが、起業家人生で長く取り組めるドメインを探していました。もともと海外に住んで働いていたということもありますが、海外や海外旅行で事業をしたいと思ったのが事業化の背景です。
海外旅行系の事業はスタートアップに限らず、「旅前」「旅中」「旅後」に区切られます。旅前にはOTA(Online Travel Agency)や旅行代理店がたくさんいます。これまでのスタートアップは旅前にフォーカスすることが多かったのですが、旅中は少なかった。他の事業者は(海外eSIMを)やっていませんでした。
一方で、海外渡航における通信はキャリアのローミングがあり、レンタルWi-Fiにシフトして、その次という状況でした。レンタルWi-Fiが出てきてから何年もソリューションが変わっていない。ここに改善の余地がないのかを探していましたが、2020年前後から(※コンシューマー向けだとiPhone XSが2018年、SIMロックの原則禁止が2021年)eSIMが使えるようになりました。それを利用すれば、海外旅行のユーザー体験がよくなるのでは、というところからスタートしています。
―― とはいえ、eSIMやSIMというとテレコム分野の技術にも関わってくるのでやや特殊で、なかなか大変だったと思います。どういうところから、ビジネスを始めていったのでしょうか。
嘉名氏 僕自身、前職はスタートアップでソフトウェアエンジニアとして働いていたので、技術にアレルギーはまったくなく、「通信はこんな感じでやっているんだ」と勉強しながら解像度を上げていきました。ただ、確かに海外事業者から通信を仕入れるのは大変でしたね。ここは、地道にいろいろな国のMVNOやMNOに連絡をしていきました。
―― 創業間もない会社からの連絡でも、話は聞いてもらえるんですね。
嘉名氏 そんなことはありません。当時はコロナ禍ということもあって、「こういうサービスを作りたい」と言っても、「どうして?」となっていました。今の戦略はMNOと提携するというもので、これ自体は当時から考えていたことですが、国内ですら、ぽっと出のスタートアップとキャリアが提携することはそれほどありません。
たまに返信が来ても、「どのぐらいトラクション(Traction=けん引力、事業の成長を示す定量的な数値)があるの?」という話になってしまい、MNOにはほぼ相手にしてもらえませんでした。いろいろな国にMVNOがいるので、まずはそういうところに連絡をするところから始めています。MVNOは「通信を卸すぐらいなら」という形で話が進んでいきました。
2022年頃から売り上げが増加 現地ユーザーに配って通信テストも
―― コロナ禍は海外渡航にも大きな制約がありましたが、それが支障になったことはありましたか。
嘉名氏 ちょうどZoomが出てきて、海外との打ち合わせはオンラインでいいという風潮になったので、そこがボトルネックになったかというとそうではないですね。もともと、旅行ドメインをコロナ禍に始めると決めたときに、1年は“潜る”ことは想定していました。当時は僕1人で、従業員がいたわけでもないので、食べていくことはできました。
―― 潜っていた中で、伸び始めたきっかけとしては何があったのでしょうか。
嘉名氏 2022年ぐらいに韓国に行けるようになったあたりから、少しずつ伸びていきました。「海外旅行って行けるんだ」という風潮になり、売り上げが少しずつ出てきました。
―― 何かプロモーションを仕掛けたというより、オーガニックに口コミなどで伸びていったのでしょうか。
嘉名氏 そのときまでに仕込んでいたことはありました。1つ目が、プロダクトです。コロナが明けたときにプロダクトとして満足いただけるものにして、スタートダッシュを決めたいと考えていました。コロナ禍でトラクションがなかったのが、逆によかったと思っています。海外旅行をする方がいらっしゃらない中で、海外MVNOから仕入れた通信が使えるかどうか分からないので、現地在住の方に配って本当に使えるかどうかを試してもらうということを、地道にやってきました。そこからフィードバックをもらって、アプリを改善するということができました。
マーケティング面では、海外でeSIMを使うことが認知されていたわけではなかったので、SEOやブログなどを活用しました。ブログを書いていた駐在の方に、eSIMというものがあり、トリファを使ってみたというような内容のものを書いてもらいました。その結果、「フランス eSIM」や「ドイツ eSIM」で検索すると、自然と弊社のものが上がってくる状態が作れていました。
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