2008年はモバイルWiMAX、3.9G、4Gへ向けた種まきが重要に:2007年の携帯業界を振り返る(4)(4/4 ページ)
ジャーナリストの神尾寿氏と石川温氏を迎え、2007年の携帯業界を振り返る年末の特別対談企画の最終回。今回は新しく始まった端末販売制度が焦点に。また、キャリアやコンテンツプロバイダのサービス全般を振り返り、2008年に向けての展望を両氏に語ってもらった。
2008年は2010年のための種まきが重要に
ITmedia では最後に、2008年の見通しをお聞きします。2007年にいろいろ叫ばれてはいたものの、実現しなかったものとしてMVNOやフェムトセルの話題があります。政府がユビキタスネット社会(u-Japan)を実現させる目標として掲げている2010年や、周波数再編の期限となっている2012年に向けた動きなどを含め、2008年はどんな感じになると思われますか?
石川 2008年はちょっと落ち着くのかな、という気がしています。目新しいトピックは正直少ないと思っていて、新しく始まるサービスもあまりないだろうし、新しい販売方式で買い替えのサイクルもゆっくりになるだろうし。そういうことを考えると、2010年以降に向けての調整期間なのかなと思っています。ただ、iPhoneがあるし、MVNOのディズニー携帯もあるし、年末くらいにはGoogleが業界に入ってくるかもしれないと考えると、海外からの流入もあるので、日本としてどう戦っていくか、というのが見物だと思っています。
神尾 2008年は結構大事な年だと思っています。確かに、契約数がここまでくると、さすがに表面的に大きな動きは見えづらくなってくると思います。ソフトバンクモバイルがどれだけ伸び続けられるかとか、KDDIがどれだけ短期間で落ち込みを回復できるかとか、個々には注目のトピックスがあるんですが、端末需要や市場規模が大きく伸びるのは難しいでしょう。キャリア間の競争もだいぶ落ち着くと思います。
ただ一方で、2010年や2012年を見越したときに、ここで新しい市場を作れるか、種蒔きができるかというのが、今後の業界にとってすごく重要です。市場拡大のために、今までとは違う新しい何かを作れるかがすごく大事で、それができるところとできないところで、5年後くらいに勢力差がかなり出てくる可能性があります。だから、データ通信用の組み込み機器や専用型端末、MVNOなどで、新市場創出のアプローチをしなければならない。携帯電話やノートPC以外の、新たなモバイル市場を作るために動き出さなければらないんです。
この先、モバイルWiMAXも出てくるし、3.9Gもあります。インフラのキャパシティが上がってくるので、そのときのために、いかに今、インフラを消費する種をまけるかですよね。
今の需要で考えると、3.9Gって必要なの? って話になるじゃないですか。電話機とノートPCだけで3.9Gなんて、寂しい話ですよ。新しい通信インフラやサービスを使うプロダクトが、どんどん出てきてほしい。さらに、そういうのを既存キャリアだけがやるのではなくて、MVNOという形で色々あっていいと思います。そういう意味で、来年は市場全体に広がりがほしいですね。
石川 今後、通信速度がどんどん速くなっていくけれど、結局、その中に何を通すかというのが、いまいち見えてこないですね。固定に光ファイバー通信がありますが、光を引くメリットって何があるのっていったら、正直ないんですよ。コンテンツもそんなにないし、自分で送りたいものもない。そのジレンマを光は抱えていて、ユーザーが思ったほど増えていないということがある。そう考えると、モバイルも速度が速くなる一方だけど、何も通すものがないじゃない、ということになりかねない。そういったものを登場させられる、生み出せるような土壌ができて、優秀な才能が集まってきて、いろんなコンテンツやサービスが増えてくるといいなと期待しています。
神尾 次世代のインフラをスピードで見る面は当然あるけれど、キャパシティという見方もあると思うんです。家の中でネットにつなぐものはPCくらいしかないし、PCって1人で何台も使うものではないから、スピードという観点で見られるわけですが、モバイルの場合はキャパシティで見ることができます。1人が複数のさまざまなデジタル機器を使うからです。多くのデジタル機器が通信機能を内蔵して、常にネットにつながってサーバと連携するようになれば、(増大した)キャパシティを消費できるんですよ。今のように、1台の携帯電話の中だけで何かやりましょうということだと、次は動画ですか、次はテレビ電話ですか、というしょぼい話にしかならない。
例えば、デジタル一眼レフカメラで写真を撮って、その写真がその場でサーバ上のパーソナルスペースにアップロードされるとなったら、1枚で数Mバイトもありますから、それこそ3.9Gが必要なわけですよね。そういう方向に進む種まきをしてほしい。すべてのデジタル機器はすべてモバイルのインフラでネットにつながって、サーバと連携して、スタンドアロンではできなかったことができるようになってほしいなと思います。
そういう意味では、私は3.9Gや4Gの世界について光ファイバーよりは楽観しています。光ファイバーは家という限られたスペースの中で帯域を必要とするニーズを見つけなければならないから、結局、PCかテレビで何かしようという話になっちゃうんですよ。そうすると、コンテンツしか勝負どころがなくなる。しかしモバイルはそうじゃない。身の回りのものすべてが“ネットにつなぐ”対象になります。そういった意味では、組み込み型のプロダクトを軸にした新しいビジネスモデルに期待したいですね。
ITmedia まさに“ユビキタス”ですね。
神尾 その言葉は使い古されていて、あまり使いたくないですけどね。地道なところに需要はあるんですよ。バックグラウンドでのサーバ連携は、今後のモバイルサービスの基本だと思っています。
石川 ケータイのアドレス帳を預かるサービスは非常に便利だと思うので、あの延長線上がそういったアップロードの需要を喚起するのかなと思いますね。
神尾 端末の中身は丸々サーバ上にシンクロしておいてほしいですね。新しい端末に機種変更したときに、SIMカードを差し替えてパスワードを入れたら、前の端末のデータとそっくり同じものがサーバからダウンロードされて全部戻ってくる。携帯電話が紛失・全壊しても、新しい端末を用意すればすぐにデータを完全復元できるわけです。こういう、ユーザーからすると「あたりまえに実現してほしい機能」が、今の3.5Gのインフラでは実現できていないんですよね。
石川 そうなってくると、着うたフルみたいな、今は端末の中に入っている著作権データも、サーバに上がって、またダウンロードされてくるみたいな感じになりますね。著作権管理はしっかりしなくちゃいけませんけど。
神尾 着うたフルなんかは、本当はデータそのものをやり取りする必要はなくて、DRMだけきちんと管理すればいいんですよ。SIMカードでDRMをひもづけておいて、新しい端末に変えたら、この人はこのデータを買っていました、ということだけ照合して、そのリストに合うものをサーバから自動で再ダウンロードする仕組みがあればいいことです。
私は近い将来、ユーザーは今みたいに「データの実体」をあまり意識しなくてすむようになるんじゃないかと考えています。さまざまな端末とサーバが常にシンクロして、個人のデータが包括的に管理できる世界ですね。そうなるとモバイル通信インフラには圧倒的にキャパシティが必要になるので、3.9Gや4Gは絶対に必要になってくる。
あと、もう1つ必要なのは、自分が死んだらすべての端末とサーバ上のパーソナルデータを全部消去してくれるサービス。見られたくないものがいっぱいありますからね(笑)
ITmedia 全部じゃないにしても、消えてほしいものは確かにあるかもしれません(笑)
2008年は、ますます“モバイル”とそれ以外の分野の境界が曖昧になっていきそうですね。どうもありがとうございました。
(完)
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