ケータイに求められる「災害時モード」:神尾寿の時事日想
「もし大地震に遭遇したら、携帯をつかんで逃げる」という人は少なくないだろう。知人に安否を知らせる、地震の詳細を知る、危険個所情報を収集する……災害時、携帯のデータ通信が頼りになるシーンは今後増えると予測されるが、そのためには“もっと使いやすいUI”の実現が必要ではないだろうか。
6月13日に岩手・宮城内陸地震が発生したが、ここにおいて携帯電話が“緊急時の情報ツール”として有効に機能したようだ。
フジサンケイ・ビジネスアイが17日に報じたところによると、携帯電話経由で安否を知らせる災害伝言サービスの登録件数が、固定電話の約2倍の4万6000件を超えたという(参照記事)。データ通信を使った災害伝言板サービスはNTTドコモが率先して導入し(参照記事)、その後、他キャリアにも広がったが(参照記事)、特に“ユーザーの手元にある”携帯電話の利用は着実に広がっているようだ。
また、今回は緊急地震速報も有効に機能した。携帯電話向けでは、ドコモが905iシリーズ以降に緊急地震速報を知らせる「緊急速報エリアメール」を導入(参照記事)。auなども最新機種で緊急地震速報に対応しているが(参照記事)、こちらも緊急情報の伝達手段として着実に機能し始めている。どれだけタイムラグなく緊急地震速報を伝えられるかはシステム全体の課題だが、これがうまく機能するようになれば、テレビやラジオよりも身近なメディアであるケータイの防災価値は一段と高くなることだろう。
緊急速報と連動して「災害時モード」を
しかしその一方で、携帯電話の災害時支援機能・サービスには課題もある。UI(ユーザーインタフェース)の部分だ。
携帯電話各社の災害伝言板サービスは、iモードやEZwebなどキャリアポータルサイト上に設置されており、“携帯電話に詳しい人ならば”アクセスしやすいように最大限の配慮がなされている。しかし、携帯電話ユーザーすべてがデータ通信を使いこなせるわけではなく、キャリア間をまたいだ検索性の向上などユーザビリティ(使い勝手)の課題が残されている。
さらに被災時の情報収集ツールとして考えれば、携帯電話はコミュニケーション用途だけでなく、詳細なニュースや危険個所情報の収集・閲覧などにも応用できる。むろん、災害伝言板サービスの提供など優先度の高いサービスもあるため、どれだけ基地局インフラに負荷をかけないかは課題であるが、“きめ細かな情報”を“いつでも見られる”というメリットが携帯電話にはある。しかしこのように携帯電話を使って情報収集するのは、日常的に携帯電話を使いこなしていない人とっては、災害伝言板サービス以上に難しいだろう。
災害時に“誰もが、その時に必要とするサービスや情報にアクセスしやすくする”。そう考えた場合、理想的なのは携帯電話のデスクトップUIがすべて通常と書き換わり、「災害時モード」に切り替わる形だ。
その最初のトリガーとしては、地震の影響を受けるエリアだけに送られる「緊急地震速報」が最適だろう。これを受信すると端末のデスクトップ画面が自動的に変わり、そこからボタンひとつで災害伝言板サービスにアクセスできるようになる。また画面上には最新の地震関連ニュースを表示し、携帯電話の位置情報機能と連携して周辺地域の詳細情報や危険情報まで自動的に集まるようになれば完璧だ。もちろん、被災から一定期間は災害時モードのデータ通信料金を無料にし、誰もが「安心・安全」に関わる情報にアクセスできるようにする。こういった仕組みは、今の携帯電話向けの技術やサービスを組み合わせて作れば、それほど実現は難しくないはずである。
日本に暮らす以上、大地震に遭遇する確率は宝くじにあたるよりもはるかに高い。誰もが被災する可能性があるのだ。そして、その時、最も身近にありそうな情報端末が携帯電話である。
ケータイを、誰もが使える災害時の情報インフラにする。――これは日本だからこそできる重要な取り組みであり、インフラ・サービス・端末のシームレスな連携とUIの作り込みが重要になる。業界全体で携帯電話の「災害時モード」実現を検討してほしいと思う。
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