日本のキャリアも“よりグローバルな製品”へ向かう──日本エリクソン フレドリック・アラタロ氏:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
日本エリクソンは9月1日、日本のキャリアのニーズにスムーズかつ迅速に対応するため、大幅な組織改編を行った。Ericssonにとって、地域別の売上高では9位でしかない日本市場に、これだけの体制を敷く理由は何か。日本エリクソン 代表取締役社長のフレドリック・アラタロ氏に聞いた。
日本市場のグローバル指向は強くなっていく
ITmedia グローバルの経営観点に立ったとき、Ericssonにとっての日本市場はどのような位置づけなのでしょうか。
アラタロ氏 世界規模で見ますと、Ericssonのビジネスにおいて日本(の収益的な位置づけ)は9位というポジションにあります。全収益に占める割合は約3%です。
しかし、収益規模的には9位であっても、Ericssonのグローバルビジネスにおいて、日本は9位という位置づけ以上に大切な市場だと考えています。日本市場は常に新しい技術やサービスが普及するという特性がありますので、その点で日本市場との関わりをしっかりと持っておく必要があります。さらに将来を見据えますと、これまでの日本市場は閉鎖的な一面もあったのですが、徐々にグローバルなポジションに移ってきていると感じています。そういった意味からも、Ericsson全体にとって日本市場の重要性は増してきています。
ITmedia 日本市場ではNTTドコモが研究開発・ビジネスの両面で強いリーダーシップを担っていることもあり、スーパー3Gや4G、また他キャリアで見れは「HSPA+」など次世代インフラへの移行が、世界的に見ても早く進みそうです。この中で日本エリクソンはどのような役割や(市場での)ポジションを狙うのでしょうか。
アラタロ氏 我々Ericssonは、グローバルで新しい技術やインフラを採用するオペレーターを積極的に支援するスタンスをとっていますので、早期に(スーパー3Gなど次世代インフラ向けの)装置を開発・市場投入し、この分野におけるマーケットシェアを確保していきます。特に日本は、新たな通信インフラをいち早く導入する地域の1つになると考えていますので、我々の質の高い機器やソリューションを提供していきたいと考えています。
ITmedia スーパー3Gや4Gについては、日本の通信機器メーカーも積極的に研究開発や製品開発を行っていますが、Ericssonの優位性は打ち出せますか。
アラタロ氏 新たな通信インフラの時代においては、日本のキャリアはより「グローバルな製品」に向かっていくことになるでしょう。そういった面から、我々は日本のキャリアをサポートしていけると自負しています。
また、日本エリクソンはこういった「グローバル」のメリットを提供するだけでなく、日本のキャリアのニーズにきめ細かく応える「ローカル」なサポート体制も構築しています。グローバルとローカル、どちらの価値も用意できることが、我々の強みとなるでしょう。
ITmedia 日本の携帯電話産業はこれまで「鎖国的」と言われてきたわけですが、2010年以降のスーパー3GやHSPA+が本格化する時代においては、かなりの部分で「グローバル化」がむと予想されているのでしょうか。
アラタロ氏 その答えは、はっきりと“イエス”です。もちろん、すべての機器やサービスがある日いきなりグローバル仕様になるわけではありませんが、キャリアの傾向がグローバルを指向しているのは確かです。今後は、グローバルの製品を(日本市場向けに)カスタマイズし、それらをバランスよく使っていくことになるでしょう。
インフラ新時代でキャリアのビジネスは拡大
ITmedia 現在、携帯電話業界は「次の10年」を見据えた重要な時期に差し掛かったと考えられます。この次のパラダイムを、アラタロ氏はどのようにご覧になっていますか。
アラタロ氏 まず前提として、ワイヤレスのネットワークが、よりブロードバンド化していく流れが確実であるということが言えます。多くの国において、「電話」ではなく「ブロードバンド(通信)」が重要になってきています。ブロードバンドがワイヤレスネットワークで実現できることは明確であり、今後はインターネットのサービスやコンテンツを取り込むことで、(ワイヤレスネットワークの)トラフィックは飛躍的に増加するでしょう。
この中でキャリアの役割は、さらに重要になっていきます。よく今後のキャリアは「土管屋」になるのではという意見がありますが、私は必ずしもそうだとは考えていません。例えば、エンドユーザーの認証・課金をいかにビジネス化し、さまざまなパートナー企業に拡大していくかなどによって、キャリアの役割はさらに広がるでしょう。すでにソフトバンクモバイルがYahoo! Japanと、NTTドコモやKDDIがGoogleが提携するなど、インターネットのプレーヤーと連携する形も出てきていますけれども、そういった流れはさらに加速すると考えられます。
ITmedia 日本ではキャリア主導のコンテンツビジネスで、認証課金の“囲い込まれた利用”が存在していましたが、その範囲が拡大し、利用領域も広がりそうですね。
アラタロ氏 ええ。それからEricssonとしては、今後テレビの分野も重要になると考えています。モバイルTV、あるいはIPTV、もしくは両社を融合した新たなテレビなどが重要になってくるでしょう。次の時代のキャリアは、多くのパートナーと提携し、認証・課金を広げることによって新たなビジネスが広がると考えられます。
ITmedia 今後やってくるLTEやHSPA+への移行に際して、日本市場への提言をいただけますか。
アラタロ氏 日本のキャリアに向けてのアドバイスは、メディアを通してするよりも、直接伝えた方がいいように思いますので、なかなかインタビューの席では申し上げられないのですが(笑)、市場の移行という観点で1つコメントするならば、LTEなど新たなインフラ時代にむけて「端末の重要性が高くなる」ことは間違いないと思います。端末が魅力的で、バッテリーが長持ちし、さらに価格的な妥当性のあるものが登場することで、LTEなど新インフラへの移行スピードが決まるでしょう。
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