コードは世界を変える?――未来を創るApple 4つのプラットフォーム: 神尾寿のMobile+Views(5/6 ページ)
WWDCは「イノベーションとテクノロジーの震源地」である。世界中から多くの開発者が集まり、彼らに向かって「Appleの目指す未来」について語られる。WWDC 2016の会場で何が語られ、どのような未来が示されたのか?
iOSは「史上最大のアップデート」
今や押しも押されもせぬAppleの主力商品となったiPhoneとiPad。これらが使うiOSは、今回発表されたOSファミリーの中でも、「史上最大のアップデート」(フェデリギ氏)となった。
特に一目で分かる変化として大きいのが、ロック画面の刷新だろう。これまでもiOSのロック画面とそこに表示される通知は、見やすさ・分かりやすさで定評があったが、そのよさは維持されつつ、iOS 10では3D Touch機能を活用してインタラクティブになった。例えば、通知のメッセージを強く押し込めば会話の流れが確認でき、Uberからの通知を押すと呼んだクルマが今どこまできているかが分かる、といった具合だ。
3D Touchの活用はロック画面にとどまらず、メニュー画面を筆答とした基本機能・アプリの随所に拡がっている。例えばメールアプリを強く押し込めば、メール関連のコンテキストメニューに加えてよくやりとりする相手とのメールボックスの情報が表示され、アクティビティーのアプリではApple Watchと連携した活動量データがすぐに確認できる。
iPhone 6s/6s Plusから搭載された3D TouchはUIデザインを進化させる潜在力がありながら、これまでその可能性が使い切れずにいた。しかしiOS 10では、3D Touchの恩恵を存分に味わえそうだ。
同じくUI関係では、Siriとサードパーティー製のアプリとの連携が可能になり、さまざまなアプリがSiriを使用できるようになる。これまでのSiriも、Apple以外にも一部のアプリと連携する機能を持っていたが、それらは米国市場向けが多く、日本で一般的なアプリやコンテンツではSiriが使えないという状況だった。
しかし今回、Siriは広くアプリ開発者に解放されるため、コンテンツプロバイダー側が対応すれば、Siri経由で日本市場で一般的なアプリが利用できるようになる。WWDC 2016のプレゼンテーションでは、Siri経由でWeChatアプリでメッセージを送ったり、タクシー配車アプリ「Lyft」でクルマを手配するといった例が示されたが、これが日本ではLINEや日本交通アプリになる可能性があるのだ。誤解を恐れずにいえば、日本でSiriがいまひとつ拡がらない理由の1つが、Siriが対応するサービスやコンテンツは米国市場向けが中心で、日本だけで需要があるものが少ないことだった。今回、Siriが開発者向けに解放されることで、日本で人気のアプリでもSiri活用が広がることに期待したいところだ。
なかでも便利そうなのが、Siriを通じてタクシー配車アプリを使うといったシチュエーションだ。プレゼンテーションではUberやLyftの名前が挙がっていたが、日本でも日本交通アプリや東京無線アプリなどが対応してほしいところ
一方、アプリケーション部分の進化では、「写真」と「マップ」「Apple Music」が注目である。
写真は以前からある顔認識に加えて、背景も含めた写真全体の認識・分類機能が搭載された。「この写真は誰が映っていて、どのようなシチュエーションなのか」をアプリ側で判断し、過去の写真を調べるときに条件設定できるほか、新たに用意された「Memories」という機能でイベントごとに整理・分類してくれる。この機能は写真だけでなくビデオクリップでも有効であり、Memoriesでは複数の写真・ビデオをまとめて1つのアルバムのように編集して再生することも可能だ。これまでiPhone/iPadで撮影した写真やビデオは、iMovieで編集してアルバム化するといった使い方がされてきたが、それすら自動化されてしまうのである。写真やビデオを撮るのは好きだが、整理・編集するのは面倒というものぐさなユーザーには朗報だろう。
マップでは地図のデザインが洗練されたほか、地図上からレストランの予約やタクシーの配車が可能になった。日本でどこまで対応するかは不分明だが、マップアプリからアプリを切り替えずに、お店の予約からタクシーを呼ぶことまでできてしまうのは、確かにスマートだ。またナビゲーション機能もさらに進化して、米国ではリアルタイム渋滞情報の対応とナビゲーション画面での表示に対応する。カーナビゲーションとしての機能はかなり市販カーナビや有料のカーナビアプリに近づいた印象であり、これがCar Playを通じて車載カーナビでも利用できることをかんがみると、ナビゲーション市場でのインパクトは大きそうだ。日本版がどこまで進化しているか、早く試してみたいところである。
Apple Musicは基本的なUIデザインが抜本的に見直され、従来よりもシンプルさを重視したものになった。Apple Musicの契約者は1500万人と定額制音楽サービスの中では随一であるものの、これまでUIデザインに関してはApple製にしてはやや使い勝手への不満が多かった。それが改善されるというのは、音楽ファンにとって朗報だ。また楽曲の付加情報(メタデータ)も増えて、新たに歌詞表示が可能になる。これは日本市場でも一部の楽曲から対応していく模様だ。
コミュニケーション分野では、最も基本的な「電話」と「メッセージ」の機能が進化した。
まず電話機能では、ビジュアルボイスメールが進化し、録音された留守電の内容が自動的に音声認識されて文字で確認できるようになる。日本でも同じ機能が実装されるかは今のところ不分明だが、もともと「留守番電話がメールのように扱えるようになる」というのがビジュアルボイスメールの便利なところ。録音データのテキスト化はその便利さがさらに増すため、何としても日本語版の対応をしてもらいたいところだ。
一方、メッセージはよりリッチな表現が可能になった。これまでも写真の添付など基本的な機能は搭載されていたが、URLのリッチ表示に始まり、文字や絵文字のサイズを変更する、手書き文字を送る、メッセージの背景画面にエフェクトを入れるといったことができるようになる。
さらに「Stickers」という機能では、コンテンツプロバイダーが販売するイラストやアニメーション、エフェクト、各種サービスをメッセージ上で利用することが可能になる。やりとりするメッセージにディズニーのイラストを入れたり、写真を加工して動かしたり、さらにはデリバリーサービスへの注文をメッセージ上から行ったりできる。ただし、日本ではこれらの機能の多くは「LINE」が実現しているのも事実だ。日本で普及するかどうかは、日本人好みのStickersが多く用意されるかにかかっているだろう。
今回、iOSのアップデート項目は多岐にわたり、それだけ見てもiPhone/iPadの魅力が底上げされるのは間違いない。しかし、それに加えてもう1つ、AppleはiOS 10への姿勢としてプライバシー重視について言及した。
「われわれはコミュニケーションからヘルスケア、家電連携までiOSの利用範囲を広げているが、そこで重要なのは(端末とサービスの)エンド・トゥ・エンドできちんと暗号化しているいることだ。またAppleはユーザーの情報を収集して、それを不正に使ったりマネタイズすることはしない。(iOSに)魅力的な機能を搭載していくだけでなく、引き続きプライバシーを重視していく」(フェデリギ氏)
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