コードは世界を変える?――未来を創るApple 4つのプラットフォーム: 神尾寿のMobile+Views(6/6 ページ)
WWDCは「イノベーションとテクノロジーの震源地」である。世界中から多くの開発者が集まり、彼らに向かって「Appleの目指す未来」について語られる。WWDC 2016の会場で何が語られ、どのような未来が示されたのか?
全ての子どもたちにコードの力を
4つのOSプラットフォームの刷新についてプレゼンテーションが終わり、再びCEOのティム・クック氏が登壇する。ここでOne more thing...ではないが、今回のWWDCで最も重要な発表が続いた。Appleのソフトウェア開発環境である「Swift」だ。
「われわれ提供する4つのOSプラットフォームを魅力的なものにするのは開発者の皆さんの力であり、それを支えているのがSwiftだ。SwiftはiOS、macOS、watch OS、tvOSの全てのアプリ開発に使うことができる。Swiftは2年前にリリースされたが、今では約10万以上のアプリがSwiftで開発されている」(クック氏)
さらにAppleでは2015年にSwiftのオープンソース化を行い、Swiftの開発コミュニティーを積極的に拡大している。AppleのSwiftについては、IBMをはじめ世界有数のIT企業に支持の輪が拡がっている。
「Swiftはパワフルでありながら、構造はシンプルであり、多くの人がプログラミングコードを書きやすいものになっている。このSwiftをさらに多くの人々に広げるために、iPad用のSwift開発アプリ『Swift Playgrounds』を提供する」(クック氏)
会場にどよめきが走り、Swift Playgroundsの概要が説明されると歓声と拍手が波のように広がっていった。Swift Playgroundsと呼ばれるアプリは、会場にいる開発者たちの後輩を育てるもの。そう、子ども向けのSwift学習ツールだったからだ。
Swift Playgroundsが目指すのは、世界中の子どもたちにプログラミングコードの世界を教えること。アプリを開くと、ゲームのような画面が表示され、そこに表示されるレッスンを1つずつクリアしていくと、プログラミングの基本概念とSwiftのコードが覚えられるというものだ。MacではなくiPadを学習ツールとして使うメリットを生かして、仮想キーボードにはSwiftのコード群を表示させるなど使いやすさにも多くの工夫が凝らされているという。
冒頭でも述べた通り、Appleは学生向けのプログラミング教育や奨学生制度を充実させるなど、若手開発者の育成に力を注いでいる。Swift Playgroundsはその取り組みをさらに一歩進めるものであり、子どものうちからプログラミング教育に触れることで、コードで作られたアプリをただ使うだけでなく、コードを書いてアプリを作れる子どもや若者を増やそうとしている。これは今後のIT社会でとても重要なことであり、本当の意味での「IT教育」といえるだろう。これからの時代を生きるにあたり、世界中の全ての子どもたちにコードの力を感じる機会が必要という考えなのだ。
Swift Playgroundsは、ガジェット好きをワクワクさせるハードウェアではないし、多くの一般ユーザーが今すぐ体験できるソフトウェアやサービスではない。しかし、視線を子どもたちの背中の向こうにある未来に向けたとき、とても大切な取り組みであることに気付く。そして、Swiftを学びコードの力を身に付けた子どもたちが成長したとき、それはAppleの開発者コミュニティーの力になり、Apple製品の魅力にもつながっていく。あまりにも気の長い話? いや、そんなことはない。WWDCは今年で27年目なのだ。
Appleが2016年のWWDCにおいて、デザインテーマを「コード」にしたことをかんがみても、Swift PlaygroundsがWWDC 2016の目玉であり、そこに込められた思いがとても重要であることが分かるだろう。
WWDCは13日を始まりとして1週間続く。
4つのOSプラットフォームと、そこに向けてコードを書く開発者たちの力こそが、今のAppleが世界を変えて未来を創る源泉になっている。
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