「ポケモンGO」の衝撃――通信キャリアや端末メーカーに与える影響は?:石野純也のMobile Eye(7月11日〜25日)(1/2 ページ)
「ポケモンGO」の配信がいよいよ日本でもスタート。23〜24日は、街中でポケモンGOに興じる「ポケモンマスター」の姿も多く見かけ、街中の風景を一変させた。ポケモンGOは、モバイル業界にどのような影響を及ぼすのだろうか?
Googleからスピンオフしたベンチャー企業のNianticと、ポケモンが共同で開発した「ポケモンGO」の日本配信が、22日に始まった。ポケモンGOは、先行してサービスがスタートしていた米国などで大ブームを起こしていることもあり、配信前から報道が絶えず、話題性が日増しに高まっていった。
期待感が最高潮になった中でのサービスインということ、土日で外出しやすかったこともあって、23日、24日の2日間は、街中でポケモンGOに興じる「ポケモンマスター」の姿も多く見かけた。誤解を恐れずに言えば、街中の景色が一変してしまったのだ。今回の連載では、その影響力や、業界に与えるインパクトをひもといていきたい。
22日に配信が始まり一躍国民的アプリになったポケモンGO
ポケモンGOは、いわゆる“位置ゲ―”と呼ばれるジャンルのゲームだ。日本では、iモードを初めとするフィーチャーフォン時代から、こうしたジャンルのゲームがヒットを飛ばしてきた。代表的なタイトルとしては、スマホゲームでおなじみの「コロプラ」の社名の由来にもなった「コロニーな生活PLUS」や、歴史をテーマにした「ケータイ国盗り合戦」などが、位置ゲーの走りとして知られている。スマホ時代になり、位置ゲーの勢いはやや落ち着きつつあったが、Google内の社内ベンチャーとして作られたNianticが開発した「Ingress」が世界規模でヒット。日本でも、企業や地方自体などとコラボレーションを行ってきた。
このIngressで蓄えた位置情報をベースにしながら、ポケモンのコンテンツを活用し、より親しみやすいゲームとして生まれたのがポケモンGOとなる。海外で先行していた話題性や、ポケモンという超メジャーなキャラクターによる親しみやすさ、そしてもちろんゲーム自体の没入感の高さが相まって、日本でも大ヒット。本稿執筆時点で、Google Playだけで5000万ダウンロード(全世界)を突破している。ダウンロード数の目安が非公開のApp Storeでも、「無料」および「トップセールス」で、1位を獲得済みだ。
ただ、こうしたダウンロード数を出すまでもなく、街中を歩くだけで、その影響力の大きさが分かるだろう。ポケモンGOの配信が始まった22日以降は、至るところで同ゲームをプレイしているユーザーを見かける。繁華街や大きな公園のある街では、「イーブイがいた!」「ズバット、ゲット」など、ポケモンの名前を口にする人とすれ違うこともあった。筆者の観測範囲が、人口が多く、後述する「ポケストップ」や「ジム」の多い東京都内であることを差し引いても、ここまで大人数かつ、急速に広まったアプリを見たのは初めてだ。ポケモンGOは、わずか1日で“国民的アプリ”と言えそうな大ブームを巻き起こしてしまったのだ。
ポケモンGOが一変させた“街の風景”
では、ポケモンGOのどのような部分が“人を動かす”のか。ユーザーはポケモンマスターと呼ばれ、スマホ上に出現するポケモンを捕まえていく。スマホ上のマップは現実のマップと連動しており、あたかもその場所にポケモンが現れたかのような感覚を味わえる。そのポケモンの一部が特定の場所にしか現れない、もしくは特定の場所で現れやすいという情報が広がれば、ユーザーはそこに向かうことになる。ポケモンはつかまえるだけでなく、「タマゴ」をふ化させてもいいが、これも2kmや5kmといった移動が必要になるため、とにかく歩かなければならない。
また、街中のさまざまなスポットが「ポケストップ」になっており、ここではアイテムの補給や、ポケモンを出現させるための「ルアーモジュール」を仕掛けることが可能だ。ルアーモジュールは、レベルアップ時や有料の「ポケコイン」を対価として入手できるアイテム。利用者だけでなく、そのポケストップの周辺にいる、全ポケモンマスターに恩恵があるのが大きな特徴だ。この“全員に効果がある”特性が、多くの人の移動を促すことにつながっている。有料で手に入るアイテムが必要なのにもかかわらず、その場に行きさえすれば、無料で多くのポケモンが手に入るからだ。もちろん、その大前提には、ユーザーの規模が大きいゲームである必要はあるが、ポケモンGOは、既にその基準を満たしている。
ジムの場所が限られているのも、多くの人を動かせる要素だ。ポケモントレーナーはレベルが5を超えると、「赤」「青」「黄」のいずれかのチームに所属する。ここで、捕獲したポケモン同士を戦わせることが可能だ。ジムに自分のポケモンを配置し、防衛に成功すると、有料のポケコインをもらえる。自分のポケモンを披露する場であるのと同時に、お金を稼げるスポットになっているというわけだ。ジムはポケストップよりさらに限られた場所にあるため、必然的に多くの人が移動をする必要に迫られる。
実際、土日にプレイしてみた限りでは、その効果は絶大だと感じた。普段はあまり人気のない小さな公園のようなスペースにルアーモジュールを仕掛けてみたところ、ポケモン以上に、ポケモンマスターが多く集まってきた。ほぼ全員がスマホの画面に目を落とし、画面を縦方向にフリックしている。筆者の自宅付近のジムは、ある会社に設置されており、土日は基本的に人が通り過ぎるだけの場所だったが、歩道脇の柵に座ってポケモン同士の対戦に興じている人も多く見かけた。都内の大きな公園は、ポケモンGOをする人であふれかえったという報道もあった。まさに、冒頭述べたように、街の風景を一変させてしまったのだ。
単なるゲームと異なり、位置情報に連動しているだけに、現実世界のさまざまな分野に波及効果が起こる。過去にヒットしてきた位置ゲーは、人を動かすことで、自治体への観光を促したり、店舗への誘導を行ってきた。ポケモンGOでも、基本は同じだが、ここまで広く行き渡ったアプリだと、その影響力も桁違いとなる。現時点では、日本マクドナルドとのコラボレーションが発表されており、同社の店舗にジムやポケストップが配置されているが、今後、こうした取り組みはさらに広がっていくだろう。それこそが、位置ゲーの要であり、位置ゲーがプラットフォームと呼ばれるゆえんである。
現実世界と密接に連動しているだけに、ネガティブな影響も起こる。既に日本でも、ポケモンGOに夢中になりすぎたことが原因で交通事故が発生したと報じされているほか、人けの少ない場所での誘拐や強盗なども懸念されている。大手3キャリアは歩きスマホの注意喚起を行っているが、あまりに社会問題が大きくなりすぎると、ポケモンGO自体へのバッシングも起きかねない。運営元のNianticも注意喚起を行っているが、例えば、歩いていることを検知したら最低限、ポケモンの捕獲はできないようにするなど、機能面での対策も必要になってくるかもしれない。
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