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車両を遠隔運転、デジタルキーで車をレンタル――Ericssonが見せた5Gビジネスの可能性Mobile World Congress 2017

Mobile World Congress 2017で、大手通信機器メーカーのEricssonは「5G」通信にまつわるさまざまなデモを実施。早ければあと2年後には日本国内でも展開される5Gでは、どのようなサービスが誕生するのか?

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 Mobile World Congress 2017の大きなトピックの1つは5Gだった。2020年の商用サービス開始が当初の目標だったが、これが2019年に1年前倒しになり、早ければあと2年後には日本国内でも5Gのサービスが実現する。

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MWC 2017のEricssonブース

 通信機器・サービスを提供するEricssonの調査によると、5G関連ビジネスは2026年までに約5820億ドル(約70兆円)に達する。5Gはインフラとなり、製造業、物流、ヘルスケア、VR/ARを含むエンタメまで、多くの産業に変化をもたらすと考えられる。

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Ericssonとアーサー・D・リトルの予測調査

 EricssonグループCEOボリエ・エクホルム氏は、Ericssonブースで行われた記者会見で「5Gははやり言葉ではなく、これから進行していくものである」と表現した。来る5G時代に向けてどのようなサービスが誕生しているのか、ブースの事例を紹介しよう。

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Ericsson グループ代表取締役社長兼CEO、ボリエ・エクホルム氏

5Gで車両を遠隔運転

 Ericssonブースでは、5Gネットワークを利用する遠隔運転デモが展示されており、実際に会場から50km離れたレーシングサーキット場にある車両を、時速20km程度で運転できるようになっていた。車両側には3台のカメラが設置されており、4K映像が会場のディスプレイに転送される。さらに車両には振動センサーが搭載され、障害物を乗り越えたときの振動が会場側の運転席にフィードバックされるので、実際に車両を運転しているような感覚が得られた。

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遠隔運転デモを体験

 データ量は毎秒500万キロビットにも及ぶが、5G通信における遅延はわずか3ミリ秒程度。サーキット場側に5Gネットワークが構築されており、そこからMWCの会場まではテレフォニカの光ファイバー通信で伝送されている。ビデオやハンドル操作の処理などの影響で、デモでは50ミリ秒の遅延が生じていたが、それでもほぼリアルな体感で、遅延による酔いや違和感もなく運転できた。

 将来、工事用車両は自動運転化するといわれているが、遅延の少ない5Gなら、万が一現場で車両が停止しても遠隔で操作できる。

5Gの基地局アンテナを内蔵した街路灯

 基地局のアンテナといえば、ビルの屋上や鉄塔にあるイメージだが、Ericssonとフィリップスは、内部に5G対応の無線ユニットを搭載した街路灯型基地局を共同開発。省スペース化と既存のインフラを活用できることがメリットだ。

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アンテナなどを支柱に内蔵し、街路灯と一体化。日本でもKDDIが2016年12月末から、熊本県の被災地へ1台導入している。デザインは違うがコンセプトは同じものである

脳科学で顧客満足度を上げる?

 読み込みが遅くて動画が止まったとき、人はどれくらいのレベルでストレスを受けるのだろうか? ユーザーの顧客満足度を上げるための調査に使われるのが脳科学だ。

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今後は各国で調査を行う。日本人のデータがどうなるか気になるところだ

 ランダムに人を集めて、動画を視聴したときの脳波を計測。若い人は3秒でも再生が止まったらストレスを受けるが、30代後半はもっと遅くてもストレスを感じないなど、データを集めて分析する。調査結果はキャリアに提供し、ネットワーク改善のコンサルティングに活用するという。

誰とでもキーをシェアできるコンパクトSUV

 中国の自動車メーカー、ジーリーが2016年10月に発表した新ブランド「LYNK & CO」。コンパクトSUVの「01」は、車の新たな価値を提供するコネクテッドカーとして注目を集めている。

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コネクテッドカーの小型SUV「LYNK & CO」

 Ericssonはコネクテッドカーのクラウドプラットフォームを提供しており、さまざまなアプリを提供する。

 例えば所有者が車を使っていない間、友達など自分があらかじめ登録したコミュニティーメンバーにデジタルキーで車をレンタルできる。いわゆるC2Cのカーシェアリングサービスだが、B2B、B2C仕様にも対応可能だ。

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Ericssonの開発するプラットフォーム

 B2Cの例でいえば、車の修理が必要になったとき、所有者はWebサイトで修理の時間を予約する。そうすると修理会社が代車を自宅まで持ってきて、所有者に代車用のデジタルキーを発行。代車がそのまま使えるようになるので、修理会社に車を持っていく必要がなく、時間の節約になる。「今後はジーリー以外の複数のメーカーでもプラットフォームを展開していきたい」と担当者は語る。

トラックにも通信機能を内蔵

 ボリエ・エクホルムCEOが記者会見で「トラックはネットワークにつながるデバイスの1つとして見ている。IoTとは『インターネットオブトラック』のことだ」と冗談を飛ばしていたが、スウェーデンの工業メーカー、スカニアと提携して開発したプラットフォーム「スカニアワン」は、まさしくコネクテッドトラックとして新たな価値を提供することになる。

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スカニアCEO、ヘンリック・ヘンリックソン氏が「スカニアワン」を紹介

 例えばドライバーがスカニアワンで運転前の車両をチェック。トラックの後ろのケーブルが断線していれば、ドライバーがその情報を入力し、サービス部門がすぐに対応できるようになる。インタラクティブな管理によって、より効率的なサービスが可能なる。

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アプリケーションは顧客によってカスタムできるようになっているので、運転のBGMにと定額制音楽配信サービスのSpotifyを搭載することも可能だ

 スカニアは1990年代から車両のコネクティビティに取り組んでおり、2011以降は出荷する全ての車両がコネクテッドトラックとなった。現在は欧州で25万台のスカニア製コネクテッドトラックが存在するため、新たなビジネス展開も期待できる。

 CEOのヘンリック・ヘンリックソン氏は「物流業界では、トラックの稼働率は60%にすぎない。スカニアワンによってダウンタイムを低くし、稼働率を増やしたい」と意気込んだ。

スマートファクトリーでドライバーもIoT化

 Ericssonは中国工場で無線機を製造しているが、ドライバーでネジを締める工程は紙に手で記録してパワーなどを調整しているため、時間がかかるうえバランスを間違えるとネジの破損や本体故障につながる。

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ドライバー上部に取り付けられた黒い箱の中に通信モジュールが入っている

 そこでEricssonは、China Mobile、Intelと組み、ドライバーに取り付けるチップセットを共同開発。スペインのキャリア、Telefonica(テレフォニカ)のLTEネットワークを使い、使用データを自動的に収集、分析する実証実験を開始した。

 これにより、約1000台ものドライバーの状態をPCで一元管理できるため、ツールの長寿命化と操作中の人為的ミスの低減が可能になる。メンテナンスの際は、担当者がモバイル端末で調整する機器を確認できるのもメリットだ。

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ドライバーの状態をデータで管理

 工場外への移動は発生しないため、ネットワークはNB-IoT(狭帯域の無線システム)を利用する。既存のLTEを活用するため、新たにWi-Fiネットワークを構築するコストが不要になる。

 ボリエ・エクホルムCEOは「4Gは将来の5Gへの橋渡しとしての役割がある」として、5Gは4Gの延長線上にあることを主張した。デジタルフロンティアのパイオニアであるEricssonは、LTEと5Gを活用してどんな新たな価値を生み出すのか、今後も目が離せない。

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