これからは“差別化”が重要に――MVNOが振り返る2017年
格安な料金を武器に、順調にユーザー数を増やしてきたMVNO(仮想移動体通信事業者)。しかし、2017年は純増数に陰りが現れ、中には事業撤退・譲渡を決断する事業者も現れた。当事者たちは、現在の市場環境をどう見ているのだろうか。
MNO(大手キャリア)から通信回線を借りて通信事業を営むMVNO(仮想移動体通信事業者)。MNOと比較して格安な月額料金を武器に、順調に成長を続けてきた。
しかし、MVNOへの転出を防ぐべく、MNOが「格安プラン」や「サブブランド」を駆使して対策を行った結果、MVNOの純増の勢いは鈍化。そのことは、多くのMVNOに回線を貸し出すNTTドコモが純増計画を“下方修正”した要因の1つとなっている。
そんな動きに前後して、事業からの撤退、あるいは同業他社への事業譲渡を決めるMVNOも現れ始めた。
そんな2017年を、MVNOの「中の人」たちはどう捉えているのだろうか。「mineo(マイネオ)」を運営するケイ・オプティコム、「BIGLOBEモバイル」を運営するビッグローブ、「イオンモバイル」を運営するイオンリテールの担当者が、MMD研究所(MMDLabo)主催の勉強会で語った。
他人事ではない「事業譲渡」
9月26日、プラスワン・マーケティングが楽天にMVNO事業の大部分を売却した。このことについて、2017年の振り返る中で「どう思ったか?」とMVNOの担当者に質問が投げかけられた。
それに対し、ケイ・オプティコムでmineo事業を担当する上田晃穂氏は「お客様にとって、mineoが突然なくなることは悲しいこと。そういうことにならないように、ちゃんとやろうと思った」と語った。この件が気を引き締めるきっかけになったようだ。
ビッグローブの中野雅昭常務は「言い方の良しあしはさておき『やっぱりなぁ』と思った」という。「業界全体として厳しさのある中で、前を走っていた」がゆえに、このような結果になってしまったと考えているようだ。その上で、「ビッグローブは、お客様に継続的にしっかりとしたサービスを提供することを基本に考えている。これは今後も同じである」とした。
一方、イオンリテールの井原龍二氏は「FREETELさんの件が一番『あっ』と思った」としたものの、「MNOの格安スマホ対抗意識」も気になったという。
3人の話を聞く限り、MVNOはプラスワン・マーケティングが取った選択を多かれ少なかれ「自分事」として捉えているようだ。
重要なのは「差別化」
先述の通り、MVNOの多くは従来、格安な月額料金によってユーザーを獲得してきた。しかし、過剰な価格競争はユーザーサポートや通信速度などに悪影響を及ぼす可能性も否定できない。そのためか、昨今では料金“以外”での差別化が重要であるという声をよく耳にする。
ケイ・オプティコムの上田氏は、これからのMVNOに必要なのは「ユーザーの印象に残る」「オンリーワン」のサービスであると語る。
それを踏まえ、同社のmineoではユーザーと意見交換しながらサービスを開発する「共創」と、端末ラインアップと顧客接点を拡大する「安心」の両軸を重点戦略に据えている。今後は「情緒的価値」「社会的価値」を広げるようなサービスの開発にも努めていくという。
ビッグローブの中野常務は、「お客様を『マス』として捉えるのではなく、『個々』のペイン(不満点)やウォンツ(要求)に応える」ことが重要だという。
同社ではリニューアルした「BIGLOBEモバイル」において、「SIM替え」をキーワードに今使っている端末でも月額料金を下げられることを訴求している。ただ、それは他のMVNOでも同じこと。そこで、中野常務は「ネットワーク品質」を差別化要素として挙げる。
BIGLOBEモバイルでは、特定の動画・音楽配食サービスのデータ通信量をカウントしない「エンタメフリー・オプション」を提供している。そこに高速バッファリング、同時通信数最適化、バースト通信といった技術を活用しつつ「料金だけではない特徴」(中野常務)を出していくという。
イオンリテールの井原氏は、「客層の変化」がこれからのMVNOの課題になりうると語る。
井原氏は、2019年10月に控える消費増税によって「通信コストがネックになる」と見ている。その上で「その時に格安SIMや格安スマホ(MVNOサービス)がどう見られるか」が重要なポイントだという。要するに、スマートフォン(あるいは携帯電話)に対するリテラシーのより低い人が携帯電話料金を見直す時に、MVNOが選択肢に入るかどうか問題であるということだ。
その点、井原氏は顧客接点がおおむね全国にあることが同社の強みであるという。「技術はないが人はいる」(井原氏)ことを生かした対面契約・対面サポートにより力を入れることで、「安心して使える格安スマホ」として差別化を図る。
関連記事
- 個人+法人で200万回線突破も、IIJmioは伸び悩み 「競争が厳しくなっている」
IIJの総回線数が200万を突破。法人はMVNEも含めて伸びているが、個人向け「IIJmio」の純増は鈍化している。それでも勝社長は「厳しい競争の中でIIJは生き残るつもり」と語る。 - 楽天がFREETELのMVNO事業を買収 プラスワンは端末事業に専念
楽天が、プラスワン・マーケティング(FREETEL)のMVNO事業を買収。プラスワンは11月1日から分割会社になり、端末事業に専念する。 - MMDの「2017年9月格安SIMサービスの満足度調査」 総合満足度1位は「UQ mobile」
MMD研究所の「2017年9月格安SIMサービスの満足度調査」によると、利用率上位15サービスの満足度は75.3%。総合満足度1位はUQ mobileで、NPSの1位はLINEモバイルの15.0%となった。 - 大手3キャリアの66.2%がデータ容量の節約経験あり、84.1%がWi-Fi環境下で動画を視聴
MMD研究所は、9月7日に大手3キャリアのスマホユーザーを対象としたデータ容量別利用実態調査の結果を発表した。約7割が速度制限予告メールを受信し、66.2%がデータ容量を節約しながら利用。84.1%がWi-Fi環境下で動画を視聴し、データ容量を節約している。 - 格安SIMにしない理由TOP3「2年縛り」「理解不足」「通信速度」 検討サービス上位は楽天・UQ・Y!mobile
MMD研究所はスマートフォンを所有し、格安SIMを検討しているユーザー対象とした「格安SIM検討者の意識調査」の結果を発表。今まで格安SIMにしなかった理由TOP3は「2年縛り」「理解不足」「通信速度」で、iPhoneユーザーは「iPhoneでも利用できるかわからない」が顕著となった。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.