ビジョンなき“携帯料金値下げ”は「サービス品質」と「国際競争力」の低下をもたらす(3/3 ページ)
内閣総理大臣に就任した菅義偉氏は、「日本の携帯電話料金世界で最も高い」と発言し、電波利用料の引き上げにも言及。寡占が指摘されている携帯大手3社によりいっそう強い圧力をかけて料金引き下げを求めるとみられている。市場寡占は望ましいものではないが、値下げによる弊害も考えられる。
見えない5G、6Gでの国際競争力強化に向けたビジョン
菅政権の携帯電話に関する発言を見ていてもう1つ気になるのが、5Gやその先の通信規格「6G」に向けた話がほとんど出てきていないことだ。既に、法改正による端末値引き規制によって5Gスマートフォンの販売が伸び悩むなど、端末値引きを狙った規制が5Gの普及に明らかな弊害をもたらしているのだが、今後いっそう懸念されるのが5G、6Gを巡る国際競争だ。
日本の携帯電話業界は携帯電話会社を中心に発展してきたことから、研究開発も携帯電話会社主導で進められてきた経緯がある。既に国内の通信機器ベンダーや端末メーカーは世界シェア1%にも満たず、次世代に向けた大きな投資ができるとは考えにくいだけに、今後のモバイル通信に向けた研究開発も、企業体力のある携帯電話会社を主体に進められることになるだろう。
だが大手3社の大幅な料金引き下げがなされれば、3社がインフラやサービスだけでなく、5Gや6Gに向けた研究開発費を減らす可能性も高い。それはすなわち、モバイル通信に分野における日本の国際競争力が低下することにもつながってくるのである。
ドコモの2020年度第1四半期決算説明会資料より。法改正の影響で2019年度は減収減益の決算となったことから、いっそうコスト効率化に取り組むとしているが、それは次世代の研究開発に割くコストも減らすことにつながってくる
5Gや6Gに関しては、米国や中国、韓国など世界各国が国を挙げて研究開発を進めており、主導権争いが非常に激しくなっている。日本でも総務省主導で、6Gに向け政府が取り組むべき事柄を示した「Beyond 5G推進戦略」を2020年6月に打ち出している。しかし菅総裁や総務大臣の会見を見るに、携帯電話の料金引き下げは声高に訴える一方で、5Gや6Gに向けた今後のビジョンや方向性を見せることはなく、その指針がどこまで重視されるかは不透明だ。
総務省は2020年に「Beyond 5G推進戦略懇談会」を実施して5Gの高度化や6Gに向けた政府の在り方を議論してきたが、携帯電話料金値下げに大きな比重を置く菅政権下で、そうした取り組みがどこまで強化されるかは不透明だ
菅氏は、携帯電話が電気やガスなどと同じ国民のライフラインでありながら、3社が他のインフラ事業者の数倍に上る利益率を出しており、もうけ過ぎていることが問題だとしている。だがモバイル通信は他のインフラ事業と比べ技術革新が非常に速い上に国際競争も加速しており、5Gへのインフラ入れ替えや6Gに向けてはより大きな投資が求められていることを忘れてはならないだろう。
ビジョンなき料金引き下げは、モバイル通信における日本の国際競争力を落とす要因にもなりかねない。菅政権にそうした将来への危機感が見られないことが、筆者はとても気掛かりでならない。
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